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short
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「依月?」
「ううん、何でもないよ」


苦笑いする僕に惣が訝しげな顔を向けてきたが、ゆるりと首を振って誤魔化す。

他愛のない話をしているうちにすぐにバイト先は見えて来て、僕は木で出来た飴色のドアを開ける。

カランカラン、とレトロなベルの音。カウンターの中から振り返ったマスターは、僕と惣を見るとニヤリと笑った。


「おう、依月。同伴出勤か?」
「同伴って……、喫茶店でそんな言い方しないでしょう」


お客さまを連れてきた、とは言えなくもないけれど。

振り返ると惣は少し微妙な顔をしていて、僕はマスターに向かって唇を尖らせる。


「ほら、マスターが変な事言うから」
「はいはい、そりゃ悪かったな」


ひらひらと手を振るマスターは謝っているんだか怪しい態度だったが、僕はまぁいいかと首を振って惣を振り返った。


「適当に座って待ってて」
「依月の奢りか?」
「……友達割で、後で何か出すよ」


惣の表情を見ればそれは冗談だと分かったけど、何かサービスしたい気持ちは僕にもあった為、小さく背伸びをして彼の耳元に耳打ちする。

コーヒーを奢ったりはしないけれど、試作品のクッキーでも出してあげようかな。最近、お店に出せるお菓子を研究中なのだ。


「……マスター、試作品なら出してもいいですよね?」
「あぁ、お前が今作ってるヤツな。試しにバンバン作って、感想聞いてくれ」


コーヒー以外には割と無頓着なマスターは、軽い調子でそう言った。


「……依月が作るのか?」
「うん。今、新メニューに載せるお菓子を考え中なんだ」


新作のお菓子作りは、コーヒー以外には疎いマスターに代わり、まだバイト二年目である僕にほぼ一任されている。客受けがよければ正式メニューに採用して貰えるので、張り切って考えているところだ。

まだ店内は空いていたので、惣を適当な窓際のテーブルに案内して僕は一度バックへ引っ込む。

レトロな店内の雰囲気に合わせ、店員の制服もシンプルなシャツに黒いエプロンとクラシックな仕様だ。

さくっと着替えて店内に戻ると、マスターが既に惣の頼んだ日替わりコーヒーを落としているところだった。


「依月、お前は早くビスケットでも何でも焼いてやんな」
「はーい」


僕がこれから作るのはクッキーだけど。まぁ、マスターにとっては同じなのかもしれない。首を振って、僕はキッチンに入った。

甘さの強いものと、甘さを控えたもの。とりあえず今日は二種作ろうかと決め、小麦粉から生地を練った。

ココアやチーズなどの味付きのものも考えたが、とりあえず今日はシンプルにバタークッキーに挑戦してみる事にする。


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