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short
ブラックとミルク

* * *



「あ、惣」
「……依月」


今日は四限で一日の講義を終えてキャンパス内を歩いていると、見慣れた友人の姿を見付けて声をかける。

あまり自分の見た目には頓着がないらしい惣は、大体いつでも似たようなラフなシャツとジーンズという簡単な服装をしている事が多い。

元は格好良いんだから、もっとちゃんとした格好をした方がいいのに。……もっとも僕も、センスがいい方だと胸を張ってはは言えないけど。

今日も軽い着こなしと文字通りの無造作な髪型の惣は、僕が声をかけるとほんの僅かに口角を上げて微笑んだ。


「今日はこれで終わりか?」
「うん。惣は?」
「三限で終わりだった……んだけどな、ゼミの先生に捕まって頼み事されて遅くなった」


今届けものしてきたところ、という事は彼もこれから帰るのだろうか。

いつもなら彼と一緒に帰る(といっても彼の家は此処から徒歩圏内なので、駅の途中までだ)のだけれど、今日は僕はこれからバイトだ。

そう言うと、惣は鞄を肩に掛け直しながら僕を見下ろした。


「……なら久しぶりにお前のところの店、行こうかな」
「え? うちに?」


ぱちり、と瞳を瞬かせる。

僕が大学に入学して独り暮らしを始めた頃から働いているバイト先は、ちょっとお洒落な感じのある喫茶店である。

カフェ、というよりは喫茶店という言葉の似合う店で、小さいながらも常連さんや口コミで訪れるお客さんで有り難くもそれなりに繁盛している。

惣や圭也も時折遊びに来てくれるが、そう言えば惣が来るのは少し久しぶりかもしれない。僕は嬉しいような気恥ずかしいような気持ちに少しはにかんだ。


「えーっと、じゃあ一緒に行く?」
「…あぁ」
「うん」


頷いた惣と連れ立って、僕は正門を出た。

学校からの距離でバイト先を決めた面もあるので、此処からは案外近い。……惣や圭也の家の近さもびっくりだけれど。


「惣も圭也も、絶対家からの距離で大学決めたよね?」
「あぁ。……近くに適当な偏差値で学部もそれなりに豊富で、何より家から徒歩圏内の大学があったら誰だってそこ行くだろ」
「……いや、もっと真面目に受験生する子はいると思うよ」


僕はこれでもそれなりに受験勉強してこの大学に入った口なんだけど、惣は頑張ればもう1ランクくらい上の大学に行けたんじゃないだろうか。

頭は良いのにもったいなぁ、と思わなくもないが、もし彼が頑張って他の大学に行っていたのならきっと僕とは出会えなかった訳で、それならやっぱり彼が努力家じゃなくて良かった、なんて不謹慎な事を思ってしまう。


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