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short
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* * *



挽き肉をこねてせっせと三人前のハンバーグを作っていく依月と、そんな彼を何も言わずにじっと見守っている惣とを、その更に後ろからまとめて眺めながら、俺は小さく肩をすくめた。

惣が依月へ向ける視線は、時折焦がした砂糖のように熱く甘い。

そんな目をしていたら隠した想いも気付かれるぞ、と事情を知っている俺は思うが、実際には惣が直接的な行動に出ない限りはおそらく依月は気付かないだろう。

同性の友人…親友が自分を恋愛的な意味で好いているなど、異性愛の人間ならまず考えない。直接的なアプローチがなければ、夢にもそんな発想は生まれない筈だ。

そう言った意味では、今のところは脈ナシと考えるべきなのか。……いや、惣が告白ないし何らかのアプローチをする事で、依月の方に意識が芽生えないとも限らないけど。

惣と依月、二人の親友という最も近い外野の立場から見れば、意外とお似合いだと思うんだけどな。

二人の……主に惣の為に姉さんの蔵書を見て勉強した俺は、出されたコーラを飲みながらそんな風に思う。

……女性向けの本って、何ていうか色々と凄い。いや、俺は別にそんな事が言いたいんではなくて。


「圭也は人参食べられないんだっけ?」


段々妙な方向にズレていった思考に首を振っていると、不意に依月がキッチンから此方を振り返った。

さっきまで挽き肉をこねていたと思っていた依月は、いつの間にか野菜の皮を剥く作業に移っていた。手にはピーラーが握られている。


「あっ、うん」
「ん、つけ合わせは圭也の分はなしにしておくね」
「あ、ありがとー」


言って、人参を手に持ってまな板の上に視線を戻す依月。

その姿を見ながら、俺の嫌いな食べ物とかちゃんと覚えててくれてんだなー、とほっこりした気持ちになる。

やっぱり依月はいい奴だ。ちょっとキュンときた。もちろん俺の場合は冗談だけど。

そして冗談ではなくそんな依月に本気の惣はというと、先程から依月の一挙一動をガン見である。

お前そんなに見ていたらいくらなんでも気付かれるぞ、などと思うものの、依月が此方を振り向けばその視線に宿った熱は取り繕うように何気ない表情の下に隠される。見事なものだ。


(……なんて言うか、なぁ……)


こう、見てて非常に歯がゆい。

言われてみれば分かりやす過ぎるまでの惣の態度と、そんな事にはまったく気付かない依月と。

二人の背中を押すのは、今のところ俺の役目じゃない。だからこそ、こう、頭を掻き毟りたくなるようなもどかしさがある訳で。


(ああああ、もう!)


でもきっと、あんな温度の視線を隠す惣の方がもどかしいし歯がゆいんだと思うと、やっぱり何も言えなくて。

ハンバーグを焼く依月の背中に、細いため息を一つ吐き出した。


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