アットホーム・ラブライフ
17
* * *
すっかり通い慣れた、レコードの店内。
以前一度だけ使った事のある仮眠室の奥のシャワーに押し込められた俺は、「一緒に入らないのか?」なんて軽口を叩いて顔を赤くした藤に小突かれた。地味に痛かった。
まったく、冗談だっつーのに。まぁ、あわよくば、という気持ちがあった事も否定しないが。
一人で熱いシャワーを浴びていると、先程の出来事がじわじわと頭の中に思い起こされてくる。
(好き、って言ったら、満更でもないって言われた……。え、これって実質OKって事だよな?)
はっきりと言葉で「好き」とは返して貰えなかった気がするが。藤は俺の気持ちを拒まなかったし、それどころか「雄飛なら満更でもない」と俺を受け入れる言葉をくれたのだ。
まじか。……まじか。え、俺夢見てる訳じゃないよな? 夢の中のシャワーがこんなに熱い筈ないよな?
カチカチとシャワーの温度を調整しながら、俺は自問自答する。ちょっとシャワーが熱過ぎる、少し温度下げよう。
多少温くなったシャワーのお湯を顔に浴びる。てか、そもそも何で俺はあのタイミングで告っちまったんだ。初デート(藤はそう思ってないにしても)で浮かれてはいたけれど、実際告白するならもっと藤に此方を意識させてからだと思っていた筈なのに。
痴話喧嘩、なんてからかわれて、途端に俺を意識し始めた藤が可愛くて。手を繋いだだけで真っ赤になる藤が、これ以上の事なんてしたらどんな反応をするのかなんて思って。
(――完っ全に勢いだった。今まで考えてた“予定”を全て吹っ飛ばした、勢いだった)
ついカッとなってやった。反省はしているが、後悔はしていない。
だって藤は、俺を受け入れてくれたから。
その事実を改めて反芻すると、正直な下半身が主張を始めた。
「…………」
流石に、反応させたままシャワーから上がるのは気まずい。何とか落ち着かせないと。
ちょうどよくなったシャワーの温度を、更に思いきり下げる。
「っ、めた!」
自分でやったとはいえ、今までお湯に慣れていた躰にはかなり冷たい。けれど、クールダウンにはこれくらい必要だ。
ちょっとした滝行気分で、冷たい水を浴びる。体温が下がったからか、俺の正直な息子も何とか落ち着いてくれた。
ため息を吐いて、シャワー室を出る。服を着てタオルを被ると、入れ替わりに藤がシャワー室に入っていく。少し素っ気ない態度は、照れ隠しだと思いたい。
濡れた髪からぽたぽたと垂れる雫をタオルで拭っていると、背後から藤の悲鳴が聞こえた。
「冷たっ!? 雄飛! 何で水にしてるんだ!!?」
「……、ごめん」
若さ故、ってヤツだ。俺は顔を手のひらで覆い、またため息を吐いた。
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