[携帯モード] [URL送信]

アットホーム・ラブライフ
キスの日ですよ

付き合ってる





いつものカウンター席で頬杖をかきながらスマホを弄っていた雄飛が、ふと口を開く。


「今日はキスの日らしい」
「へぇー…?」


客入りの少なくなってきた時間帯、先程立て続けにお客様が帰っていった為、今レコードに居るお客様は雄飛といつも隅のテーブル席に座る二人組の大学生風の女子だけだ。

当然藤は暇そうで、適当なコーヒーカップを布で磨いていた。かろうじて欠伸はしていないが、気が緩んだのかどこか眠たげでもある。

そんな中の雄飛の言葉に、彼はぼんやりした相槌を返す。興味がないのかとも思ったが、意外にもスマホを持った雄飛に訊き返してくる。


「なんで今日がなんだ? 何かの語呂合わせとか?」
「いや…、日本映画で初めてキスシーンがあるヤツが上映されたのが、5月23日だってのが由来らしい」
「へぇー」


藤がまた懐かしの某番組のような相槌を打つ。或いは、高校生の雄飛はこの番組を知らないかもしれない。そんな事を思いながら、藤は雄飛の空いたカップに日替わりコーヒーのお代わりを注いだ。

近頃は二杯目はブラックで頑張ると決めているらしい雄飛が、そのままカップに口を付ける。苦いコーヒーをちびちびと飲んでいる様子は大きな上背とのギャップでなかなか可愛いので、藤は無理しなくていいのにとは口にしない事にしている。

藤が笑いを噛み殺していると、一度カップを置いた雄飛がまた口を開いた。


「キスの日、だってよ」
「ん? あぁ」


それはさっきも聞いた、と小首を傾げる藤に、何故か雄飛は僅かに不機嫌そうというか不満げな表情をする。

仕方ないというように軽くため息を吐くと、雄飛は油断しきっていた藤の袖をグイッと引いた。完全に不意打ちだった為、カウンターの中に立っていた藤は思わず雄飛側に倒れ込むようにバランスを崩す。


「ちょ、雄飛……!」
「キスの日だろ? キスしようぜ」
「は!?」


耳元に吹き込まれた言葉にギョッとして顔を上げると、すぐ近くに……それこそキスが出来るような距離に雄飛の顔があった為に慌てて顔を逸らす。

いや、確かに雄飛はひと回り年下ながらも立派な藤の恋人で、キスを交わしても何もおかしくはない間柄ではあるのだけれど。けれど、それには時と場所と場合というものが大切だ。


「いや、まだ俺仕事中だし店の中だし少ないけど他にお客様もいるからね……!?」
「別にいいだろ」
「何も良くないよ!?」
「ひゅーひゅー、お熱いねー、お二人さん!」
「ひゅーひゅー」
「いいぞもっとやりなさい!」
「ほら思いっきり見られてる!!」


空いたテーブルを布巾で拭いていたバイト店員や常連女子学生が、二人の体勢を見て口々にはやし立てている。

あたふたする藤に対し、雄飛はどうせ彼らには色々とバレているのだからと今更気にする様子はない。


「あ、でも写メ構えんのは止めろ」
「あら、バレてた…」


藤の腕を掴んだまま、ふと気付いたように振り返って一言。ひゅーひゅーと二人をはやし立てていた女子学生の片割れが、口惜しげに呟いて携帯を持っていた手を下ろした。

そして改めて藤の方に向き直ろうとした雄飛だが、その隙に体勢を整えていた彼からの抵抗にあう。


「ちょっちょっ、待った雄飛!!」
「…嫌なのかよ?」
「今は嫌!! ちゃんとTPOをわきまえよう!?」


僅かに眉を下げ、年下補正で甘えてみても却下されては仕方ない。不意打ちで隙は付けても、力は藤の方が強いのだ。

口惜しげに舌打ちする雄飛と、何故か残念そうなギャラリー。恥ずかしさに顔を赤くしながら、藤は恋人にフォローを入れた。


「……、今日は夕方で終わりにするから」


雄飛のカップを取り、彼が口を付けた場所に同じように口を付けて、小さな声で一言。


「これ以上は、その後な」
「……、いい大人が間接キスかよ」
「何て言ったって、今はこれ以上は駄目!」


叫びながら突き返されたカップにまた口を付け、雄飛はやっぱりコイツ可愛い、などと考えて笑った。














--------------------
遅刻キスの日! 今年はキスの日どうしよう、と考えた上での雄飛と藤兄さんですww

いや、キスはしてないですけどね(笑) 店の中でイチャつこうとしてひゅーひゅーされるのが書きたかったのですww

雄飛藤は、かわいい歳の差っぷるを目指しています(笑)


14/5/26

≪  ≫

38/39ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!