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聖なる夜に花束を(12年クリスマス)

「……24日の予定はどうしたい?」
「……?」


不意にそう問い掛けてきた月代に、雪羽はゆるりと瞳を瞬かせた。

眠気と情事の後の倦怠感のせいか、とろんとしている雪羽の頬を優しく撫で、月代は言葉を続ける。


「何処か、イルミネーションでも見に行くか?」
「…んー…」


12月24日、クリスマスイヴ。多くの恋人たちがそうするであろう、ロマンティックなイルミネーションを見に行くのも、きっと悪くはないけれど。

疲れ果てる程に愛し合った、甘く濃密な余韻が残る空間であるからこそ、言える言葉。玻璃色の瞳を蕩かせた雪羽は口を開く。


「……そういうのも、いいと思うけど、」
「…ん?」
「俺は、いつもみたいに月代といっぱい、二人っきりで過ごしたい…な」


ケーキを作って、チキンも焼いて。大好きな恋人と、誰にも邪魔されない空間で、ずっと二人っきり。

いつもと変わらないかもしれないが、特別な場所よりも二人の空間の方がいいと、甘えん坊の雪羽は思ってしまう。

微かに掠れた声でそう告げると、夜色の瞳を軽く瞬かせた月代はすぐに蕩けるように甘く笑った。


「雪羽が望むのなら、そうしよう」
「…ん」
「俺も、お前と二人きりが一番良い」


優しく囁いて、唇の上に触れるだけのキス。

くすぐったいその感触に軽く身を捩りながら、雪羽は気怠い躰をゆっくりと甘い幸福の中に沈めていった。



* * *



二人きりで食べるのだから、七面鳥など大それたものは作れない。…というか、流石に雪羽にも七面鳥を丸ごと焼くのはおそらく無理だ。

此処は、無理せず二人で食べきれるサイズのチキンの照り焼き。資金提供は月代がしてくれたので、ほんのちょっと奮発して質の良い鶏もも肉を買っている。

せっかくのご馳走を焦がさないように注意しつつ、雪羽はオーブンで焼いておいたケーキのスポンジにチョコレート味の生クリームを搾っていく。鶏肉の後に焼いたのでは匂いが移ってしまいそうだったので、先にスポンジ生地だけ焼いておいたのだ。

昼間腕が怠くなる程に粉を混ぜておいた甲斐があって、ふっくらと焼きあがっていると思う。ケーキはホール型ではなく、ロールケーキのような円筒形。クリスマスの定番、ブッシュ・ド・ノエルだ。


「…雪羽」
「あ、月代おかえり」


慣れないながらに精一杯頑張って作ったクリスマスディナーの仕上げをしていると、いつの間にか部屋に戻ってきていたらしい月代がキッチンを覗いた。

集中し過ぎて、彼の帰宅に気付かなかったとは不覚だ。表情を曇らせる雪羽に、月代はくすりと笑う。


「今戻ってきたばかりだ。……随分頑張っていたんだな」
「……ん」


さらりと優しい手のひらが額を撫でて、目元に落ちる柔らかい感触。


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