聖なる夜に花束を 2
甘やかすように触れる月代の口付けに目を細めながら、雪羽はふと手にしていたボウルから薄茶色の生クリームを一筋指で掬った。
味見させるように、月代の口元に人差し指を持って行く。
小さな笑い声と共に、指先が呑み込まれる。ちゅ、と爪の先をなぞる舌の感触に小さく背を震わせた。
「ケーキ、これくらいの甘さでよかった?」
「あぁ。…美味しそうだな」
「もうすぐ出来るから、ちゃんと手洗ってうがいして来いよ」
少し背伸びして自分から月代の頬にキスをすると、雪羽は彼から躰を離す。
クスクスと甘く笑う月代が何だか気恥ずかしくて、チキンを焼いているオーブンに視線を移す。ちょうど、美味しそうな匂いが漂ってきた頃だ。
月代が一度キッチンを出て行くと、雪羽はケーキに仕上げの飾り付けを施し、オーブンから焼き色の付いたチキンを取り出した。
「…運ぶのくらいは、手伝わせて貰っていいか?」
「うん、ありがとう」
準備のほとんどを雪羽が終わらせてしまっていたからか、戻ってきた月代が微かに眉を下げながら言う。
雪羽が望んで月代の為にしている事なのだから、苦になんてなりはしないのに。チキンの大皿と取り皿を渡しながら、雪羽は小さく笑った。
月代が料理を運んでくれている間に、空いたオーブンにバケットを入れる。日本人らしく白米でも良かったが、一応クリスマスディナーという事で珍しく主食もパンにしてみたのだ。
慣れないテーブルセッティングに戸惑っている月代に笑いながら、適当で大丈夫だからと返す。
此処でシャンパンでも開ければ雰囲気が出るのだろうけれど、生憎雪羽も月代もまだ高校生だ。わざわざ禁を破ってまでアルコールを求める趣味は持っておらず、雪羽はシャンメリーの瓶を開けた。
二人分のグラスに注ごうとすると、ふと背後に立った月代が手にした瓶を奪う。
「雪羽の分は、俺が」
「ん、ありがとう」
互いのグラスに飲み物を注ぎ合って、ささやかながら雪羽が頑張って作ったご馳走の並んだテーブルに着く。
「…じゃあ雪羽、メリークリスマス」
「メリークリスマス、月代」
チン、とグラスの触れ合う軽い音。
舌の上で弾ける炭酸に玻璃の瞳を細めながら、雪羽は料理に手を付ける月代を見守った。
「……美味しい」
「…良かった」
優しく微笑んだ月代に、雪羽もほっと表情を緩ませて笑う。
月代が雪羽の料理を不味いという筈もないが、その言葉を貰えるだけで安堵する。
月代の反応を確認してから、雪羽も改めて自分が作った料理に手を付ける。チキンの焼き加減は少し心配だったのだが、中までちゃんと火が通っているようだ。
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