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Dolce

とある休日の午後の事。

ふとリビングを見渡すと雪羽がおらず、寝室、書斎と見て回って月代がその姿を見付けたのはキッチンの中。


「雪羽?」
「ん、何?」


昼食は一時間程前に終わったばかりで、まだ夕食の仕込みをするのにも早い時間。

振り向いた雪羽は生卵を手にしていて、彼の目の前にはボウルとカップに入った牛乳があった。


「何か作るのか?」
「デザートに久しぶりにプリンでも食べようかなぁ、って思って」
「プリン、か」


随分可愛らしいものを作るものだな、と月代は思い言ったのだが、雪羽は相槌を打つ月代に何を思ったのか片手で卵を割りながら軽く笑う。


「意外と簡単に出来るんだよ。卵と牛乳混ぜて、蒸すだけ」


オーブンで蒸し焼きにするとか面倒な事書いてあるレシピもあるけど、大抵は水張った鍋で蒸すだけでOK。アンタにも簡単に出来るよ、なんて言いながら泡立て器でボウルの中をかき混ぜる雪羽に、ふと悪戯心が湧く。

…より端的に言うのならば、無邪気に笑う表情に欲情した。

カシャカシャと卵と牛乳をかき混ぜる雪羽の背後に回ると、その躰に腕を回して抱き締めた。


「わっ…。月代?」


不意の抱擁に驚いたのか、小さな肩がピクリと揺れる。が、これくらいのスキンシップならば日常茶飯事の範囲内なので、雪羽は小さく笑って身を捩った。


「別に火使ってる訳でも包丁使ってる訳でもないから危なくはないけどさ、あんま邪魔すんなよ」
「…あぁ」


実際には邪魔をする気満々の月代だが、仕方ないといったように笑う雪羽が可愛らしくて小さく頷く。

両脇から差し込むように腕を回し抱き寄せると、雪羽は微かに身じろぎしつつも月代のするがままに任せた。

雪羽がざらざらと砂糖をボウルの中に投入した為、キッチンの中に広がる甘い香り。

直ぐ目の前にある滑らかな項に唇を寄せると、くすぐったいのか雪羽がふるふると首を振る。


「もっ、月代、邪魔すんなって言ったろ」
「…雪羽の方が美味そうに見えてな」
「……俺は、デザートじゃないんだけど」


もう一度、今度は薄紅の痕が残る程の口付けを項に落とすと、ヒクリと腕の中の躰が震える。

月代の囁きの中に潜む劣情を読み取ったのか、腕を回した胸がトクトクと可愛らしく脈打っているのを感じる。
それでも月代の腕を振り払わない雪羽は、せめてもの抵抗とばかりにふるふると首を振って俯く。

俯いた事によってその、白砂糖のような甘い項をより月代に晒しているのだという事を、自覚しないまま。


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