short (ss) 帰るべき場所 (絵アリ) 相互サイト『ぽん酢鍋』の管理人様であり、ついったでも毎日のようにお世話になっているポン酢さまより、 素晴らし過ぎる絵をいただきました!!! そして無謀にも、その素敵絵に頑張って文をつけてみました…^^ ***** 「いってらっしゃい」 その言葉がきけるのは稀なはずだ。 暗部は大抵、夕暮か真夜中、まだ星空の見える早朝に出掛けることが多い。 夜明け待ちの月が、闇夜に浮かぶ頃。 それでも今日も彼女は、わざわざ表まで出てきた。 「…寝てればいいのに。まだ早いぞ」 ふわぁ…と欠伸を噛みころす仕草も、正直だと頬を緩めた。 「……ん、でもサスケくん、大変な任務だし…。私だけ寝てるってのも、ね」 サクラが、翡翠の目を数回瞬かせると同時に、悟られまいと頬を引き締める。 「気をつけてね。頑張って」 「ああ…、おまえもな」 踵を返すと、右手を軽く上げた。 きっと後方では、彼女が大きく手を振っていることだろう。 今宵は満月。 その乳白色を背に、高い屋根の上に立つ。 サスケは後方の夜空を見上げた。 視界に入る完璧な円は、今の気候に似つかわしくなく、寒々しいほどに冷たく感じられる。 手に持った独特の面を、顔にあてる。 感情の一切を取り払う儀式。 今日も己を抑え、押し殺す。 暗部は、暗殺戦術特殊部隊―――――。 『大変な任務』と評されるに値するが、程度としてはそれ以上の表現が適するだろう。 汚れた仕事であり、命を落としそうになることも常のことだ。 人を殺したことは、ある。 目的があったから、その必要があったからだ、と。 昔も今も、自分に言い聞かせる。 そうでもしなければ。 折れそうだ。 「……不抜けが」 喉元にピタリとあてた刀が、掠れた声にかすかに震えた。 それは冷たく無機質な金属を伝わり、サスケの手の中にも振動が感じられる。 全くだ。 目の前の「目的」が、せせら笑う。 喉の奥からヒューヒューと音を出しながら、息も絶え絶えに。 テメェの立場、分かってんのか。 凄んで問いただしてやろうかと思った、その時。 自分と同様の面をつけた同僚が、その先を請け負った。 背後から、一太刀が翻る。 敵だった男は、目の光を失って前のめりに崩れた。 「サスケ…!油断するな…っ!」 別に、してねえよ。 ムッとしたが、言い返すことが出来ず。 自分を叱咤すると、脚を奮い立たせて。 残り少なくなった敵の、死に物狂いの猛功の中へと、身を翻した。 「…おまえ、うちはだろう。知ってるぜ、おまえが昔何をしてきたか…っ!!」 もう少しで命の灯が消えるであろうその男は、不敵に笑った。 サスケは眉をひそめる。 「……五大国を引っ掻き廻してきたもんなぁ…!多くの人間を手に掛けるのはお得意ってか…っ」 「…………」 「木の葉に寝返っても、どうせやってるこたぁ同じだろ…。今度は堂々と出来ちまうもんな…」 「言いたいことは、それだけか」 ギラリと、刀剣の切っ先が不気味に光る。 呼吸をする微動さえ感じられぬ、長く伸びた影。 月を背にしたサスケの表情は伺えないが、ただひとつ。 赤く光る瞳だけが、影の中に光っていた。 (……聞き飽きた) そんなことは百も承知だ。 暗部は、暗殺戦術特殊部隊―――――。 手に持った面を顔にあてる。 感情の一切を取り払う儀式。 あるいは、守るべきものを護るために己を抑え、押し殺す。 「サスケ、息の根を止めろといったはずだ」 後ろから掛けられた同僚の冷徹な言葉に、煩わしそうに振り返る。 随分とマニュアル通りだな…、と内心悪態をつきながら、口を開いた。 「……面倒くせえ。意識を戻すことはないから同じことだろ」 同僚たちが小さく嘆息して面越しに顔を見合わせる。 「全く…。またあの眼だろ」 「確かに再起不能だろうがな…」 守るべきものが出来てから、甘くなったと思う。 もとより殺傷は好まなかったが、今は尚更そうだと感じる。 汚れるのは、構わない。 だけど、この手で、傷つける手で、彼女に触れるのが躊躇われる。 彼女の手は、人を生かす手だ。 ――――――自分とは、正反対の。 自分が傷つくのは、構わない。 だけど、それだとアイツが泣くから。 矛盾した考えに、言い訳に、人知れず苦笑した。 ウスラトンカチではないが、里に認められようと、がむしゃらに身体を酷使してきた。 暗部に入ったことは誇りに思う。 だが、しかし。 サクラは、何も云わない。 生傷の絶えないこの身体に、黙って指を這わす。 死と隣り合わせであることに、ただ黙って、涙を流す。 そして、一言だけ。 「……無事で、よかった」 その言葉に、価値を見出せる。 彼女の存在が、傾きそうになる心を支える。 泣かなくていいのに。 暗部は死と隣り合わせだが、決して殺しはしないと決めたのだから。 オレはただ、償いたいだけ。 そして、守りたいだけだ。 どんなに穢れた事をしても。 どんなに命を落としそうになっても。 どんな目にあっても。 必ず帰らなければ。 必ず守らなければ。 そう思わせる存在がある。 そしてまた、そこから生き甲斐を得る。 オレが帰るのは。 ―――――――この場所だけだ。 「……おかえり…っ」 サクラが、少し涙目で首元にしがみついてきた。 ここ数日、あまり休んでいないのか、すこしやつれていると感じる。 その華奢な背中と腰にまわした手に、力を込めた。 「……ただいま。まだ寝てなかったのか」 fin. ******** 2012.9.6 ポン酢さん!もったいないほどの素敵絵を、どうもありがとうございました!! 長くてごめんなさい!激しく反省…。 満月が夜明けにあるかどうか、知らない← [*前へ][次へ#] [戻る] |