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理由なんて、ねえよ B 〜伝えたかったのは〜 (リクエスト)






帰り路、真夜中だったが、里には何とか辿りついた。

治療と報告、面倒なことは全て簡易的に済ませる。

きっと明日、早朝から火影に直々に呼び出され、目通りすることになるのだから。





「サスケくんは、やっぱり強いね……って、逆に失礼か。当たり前だよねっ」





電灯のぼんやりとした明かりの下、里の静かな街中を歩く影が2つ。

ふいに呟いたサクラは、語尾を上げて明るく軽く、言葉を続けた。




「もともと優秀だったんだし」




少しの間だけ向けていた視線を、元に戻す。




「――――昔の話だ」




優秀でも、道を誤ることもある。

思想、信念といったものに獲り付かれることによって。



たとえそれが、人道的に間違った信念だとしても。





「……今もだよ、サスケくんは私の憧れだから」





サクラの疲労で乾いた唇が、弧を描く。

その笑顔に、先程の言葉を思い出した。




『大事な人のことだもの』




「―――って、しつこいよね、私」





サクラが、再び口にした。

今度は、笑って。





それは多分、オレを『独り』にしないための気遣いのようにも聞こえた。





あのころとは少し違う、大人になった彼女なりの。

『孤独』のツラさが、大切な人を失うツラさが、戦争を通して身に染みたのかも知れない。







オレはまた、何も返せないでいる。

また、あの幼かった夜と同じだ。





これまで、いくつもの運命の糸が繋がって絡まって、やっと辿りついた。





ここはあの時と同じ振り出し。

まっさらな振り出しは、また、同じ巡り合わせを示す。





でも、明らかに違うのは。





足手まといだと思っていた少女は、誇り高い立派な忍に成長していた、ということ。

そんなおまえが、まだ同じ事を云うか。





しかも、今度は泣き顔ではなく、笑顔で……。

その温かさに、またあの日の青い空を思いだした。





―――今度こそ。






オレは、応えなければならない、と思った。

そして、感謝しなければ、とも。





「………なあ、なんでオレなんだ」





声色を変えずに、何でもない事のように、問い返す。

本当のところ、オマエほどの女が、何故こんなややこしい男に惹かれるのか、訊いておきたい。





「………理由なんて、ないよ」





サクラも、何でもない事のように、答えた。





「サスケくんが、サスケくんだから」

どんな時も、と言葉を紡ぐ。






――――この感じ。

『須佐能乎』が熔かされていく感じだ。





里に、此処に戻った時から、感じていた温かさ。

その懐かしさに、思わず眉をしかめた。




「――――――意味、わかんねえよ」




そう返しながらも、内心、すとんと腑に落ちた感覚。

その通りだ。




誰かを大事に想うことに、理由なんか、ない。

多分、ナルトがオレに対して『友達だからだ』と言ったのも、同じことだ。





「ごめん、またウザいって思ったよね」





サクラが、ぺろ、と舌を出した。

目の端に入れたその顔は、少し傷ついているようだった。




(どうして――――、おまえは、そんなに……)




なのに。


どうして、オレはこんなに、何も云えないんだ。




――――いつもだ。

ナルトに対しても、本心を何も云えなかった。





仲間に向ける想いやりも。

兄さんのくれた「愛している」の言葉も。




全て同じ類(たぐい)に分けられるとしたら。


オレのつくってきた『壁』も、ある意味、想いやりだったのかも知れない。






――――巻き込みたくなかった、最初はそれだけだったんだ。


この里を後にした、幼い日の孤独な自分を、哀れに想い。





――――――サクラから視線を外して、小さく息を吸った。





「…オレも、理由なんて、ねえよ」





口にして、その通りだ、と思った。

オレの言っている事は、多分、正しい。




「……え」




サクラが、オレの真意をはかりかねて、横から見上げる。

その視線に、また後悔すると思った。




『今、いわなければ』







「まあ、しいて言えば…」

――――感謝してるんだ。

おまえは、ずっと。





「オマエ、泣いてばっかりだったから…」

――――あの日から、ずっと。

オレの事で、オレを想って、オレのために。





「今度は、ここに居ようと思っただけだ」

――――伝えたかった。

オレなんかのために。




「――――馬鹿げてるな」

――――もう一度、ありがとう、って。

今度は、おまえのために。





「……え…」





ぽかん、とした彼女の表情から目を逸らさずに、まっすぐ視線を捉え続けた。

オレの言葉の真意の端が見えてきたのか、徐々にその頬が染まっていく。




「…そ、それは…っ!私が、ずっと勝手に、サスケくんのこと……」




いつもは、事もなげに直球ぶつけてくる彼女が、らしくなくどもる。

サクラが、慌てたように口ごもるのを、途中で制した。





――――――その先はオレが言うべきだと思った。




「身を削ってまで……」

サクラが、翡翠の瞳を揺らめかせて見つめ返す。




「危険な目に遭わせたくねえのも……」

そういいながら、彼女はまるで昔の自分だと思った。




「無理をして欲しくねえのも……」

そして、自己犠牲的に『任務』に身を捧げた兄が、サクラと重なる。




「―――――おまえが、サクラだからだ」

もう、そういうのはやめにしよう。




数年前に、背を向けた自分が、振り返って向き合った。






多分、口下手なオレの事を見続けてきたやつなら、理解できると勝手に期待する。

――――オレが今更、何を伝えようとしているのかを。





「おまえのこと、ばっかりだ」





サクラの翡翠が、見開かれて瞬きをした。





「馬鹿みてェに…」





本当に馬鹿だったのは、昔の自分だ。

大切な人を、大切に想うことに素直に頷ける今は、少しはマシなんだと思う。





「理由なんて、ねぇよ」

それだけだ。





「………サスケ、くん…」




翡翠の瞳が潤み、涙が浮かぶ。




「もしかして……伝わったの?……私の気持ち」

――――今更だけどな。





「――――ようやくな」




その温かい手に、触れてはならなかった………今までは。

だけど、今からは。






「……信じられない」






穏やかな口調の彼女は、涙をいっぱいにたたえる。

そして、一度だけ瞬きすると、それは簡単に溢れて頬を伝う。




考えるよりも先に、手を伸ばしてそれをぬぐってやった。





「―――こういう性格なんだ」





無意識に腕をまわし、小さく震える華奢な肩を抱きしめる。

――――こんなに儚く壊れそうなのに、こんなにしっかりと温かい。





「そうだったね……っ」






腕の中から、笑い泣きのような声がして。

まるで、自分の方が抱きしめられ、包まれている気がした。






「……でも、夢みたいで…うれしい……っ」






しゃくりあげる声に、胸が締め付けられる。






知らなかった。

こんなの、初めてだと思った。





なぁ、サクラ。

『大事な人』だからって…オレなんかのために。






ずっと待っていてくれて。


泣いてくれて。


笑ってくれて。





――――好きになってくれて。






「―――ありがとう」






これは昔、今とは少し違う意味で伝えた、感謝の言葉。




深呼吸して、やっといえた。

だけど、あれから何年かたった分だけ、その先がある。





「ありがとう、サクラ。―――――おまえには、感謝してる」





そして、耳元で、さらにその先を囁いた。


サクラの肩が、ピクッと反応する。







『オレも、おまえに真っ直ぐ――――向き合おうと思う』





これからは―――隣を並んで、歩いて。








つづく




*************
2012.8.17




サスケがサクラちゃんのことを好きになる理由って、やっぱり、差し伸べてくれた手が温かかったからじゃないかなぁと思いました。

って、だいぶねつ造ですけどね。

しかしサスケ、回りくどいな。

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