short (ss)
理由なんて、ねえよ A 〜愛されたかっただけ〜 (リクエスト)
夕刻からの任務――――。
辺りが暗くなってからの潜入。
火の国の辺境地における、密通者のアジト。
上忍3人の任務は、此処で、スパイが接触する瞬間を捕獲する。
そして、その漏洩した可能性のある情報を奪い返すのだ。
それというのも、その巻物は火影による暫定新薬の開発図…らしい。
予想以上の過酷な状況。
その中で彼女の一生懸命さは、ひしひしと伝わってきた。
やはり、成長したと感心せずにはいられない。
誰かの役に立ちたい。
そして、笑っていて欲しいだけ。
先程、そう言った彼女の性分は、充分に頷けた。
――――――しかし。
****
「……そんなに無理するなよ」
「むり?―――ムリってなに」
「なんでそこまでして、おまえが…」
「―――わたしがそこまですれば、助かる人がいるからだよ」
一言でいえば、危機迫った状況である現在。
奇襲によって作戦が歪み、敵襲を受けて負傷した瀕死の班員が、遥か下方に見える。
止まぬ武器の乱舞に、風遁による薙ぎ払いが襲いかかる。
木々の合間に身を潜めるこの2人は、出る機会を伺っているのだ。
サクラは医忍として、重傷を負った班員の治療に向かおうとしている。
もちろんサスケが、援護することになる。
――――――だが、明らかに分が悪い。
サクラ一人では担げぬ体格の男、その場で治療するつもりでいる。
それは自ら敵のクナイの的(まと)となり、犠牲になるようなもの。
「―――了承しかねるな」
「どうしてっ!?」
「1人でも多く生き延びることが先決だからだ」
無表情を保つその言葉に、サクラが息を呑む。
―――信じられない、その顔にそう書いてある。
分かってくれ、とは言わない、だけど。
「――――友情ごっこしてる時じゃ、ねェんだよ…!」
「そんなんじゃない。私が死ぬとは、限らないじゃない」
思いの他冷静に返したサクラに、今度はサスケが息を呑んだ。
目の前の分からずやの命知らずな女を睨む。
「……それは、たとえ重傷を負ってでも救い、ひきかえ自分が瀕死の餌食になる、とでもいうことか」
それは単なる自己満足な自己犠牲だ、と言ってやりたかった。
サクラは静かに見据える。
自己犠牲的にしか見えないサクラが、かつてのイタチと重なる。
そして―――――自分の身体を器として差し出そうとした、かつてのオレと被っていた。
「……おまえが犠牲になることはねえっ」
睨みつける目を真っ直ぐ睨みかえして、サクラは口を開いた。
「犠牲じゃないよ。これは私に出来ることだから」
彼女は、一歩も引かない。
「それに、何より、サスケくんがついているでしょ」
「……………」
これには、不意をつかれた。
「わたし、独りじゃない。信じてるから、サスケくんのこと」
「…………」
「独りで出来るわけじゃない。自分の事、そんなに簡単に考えてない…っ」
翡翠の瞳が、ふっと緩んだ。
――――――本当は、怖いんだ。
「わたしね……。独りが何よりツライこと、私だって、少しは理解しているつもりだよ」
誰の事を言っているのかは、馬鹿でもわかる。
「…………サクラ」
「だって、……大事な人のことだもの」
そして、疲れ切ったその顔に、笑顔を浮かべた。
「……女は、しつこいんだ」
数秒間、息をするのを忘れた。
こういう時に、どんな顔をしたらいいんだろう。
「――――ヘマするなよ」
返す言葉が見つからなかったオレは、やっとそれだけ応えた。
了承の意の他には、返答になっていなかったが。
それを合図にして、枝から枝へ、そして幹を蹴って彼女は舞い降りた。
瞬時に身構え、左手にチャクラをかき集めるオレには。
その小さな背中が、何よりも頼もしく見えた。
****
今のオレの中に、憎しみはない。
その証拠かどうか、『須佐能乎』を発動することはない。
正確に云うと、しようと思わないからだ。
これが平和呆けだというなら、それでもいい。
兄さんの残したかった、歩きたかった未来に、オレは居るんだと思った。
オレも木の葉も信念を持っていた。
それが正反対だっただけだ。
何が正しくて、何が間違っていて。
誰の言い分が正しいか、なんてわからない。
復讐を抱いた時点で、それは無限のループとなって全てを巻き込んだ。
それはオレから全てを奪い、代償に孤独を押し付けた。
「誰かを想う」といった概念は全て奪われた。
例えば、家族とか、友情とか、愛とか。
何もかも失って、行き場のないオレの感情は鋭く尖って全てを切り裂こうとしていた。
何もかも傷つけ、ぶつかって……全て消えてしまえばいいと思っていた。
誰もが皆、オレのように全てを失えばいい。
断ち切って、突き離して、己を捨ててまで、サクラに刃を向けた。
友にも、憎しみの復讐に満ちた目を向けた。
―――結局、肉親に愛されたかっただけだったのだ。
満たされなかったその飢えに狂い、周り全てに盾壁を構え矛先を向けた。
―――――――まるでそれは、全てを寄せ付けずに拒む、『須佐能乎』そのものだった。
オレの眼には、未来を映す代りに憎しみや破壊を植えつけられていたのだろう。
力尽きるまで、動けなくなるまで。
****
「――――――サクラ…っ!まだか!?」
襲いかかってくる抜け忍達を不殺に始末していくが、数が限りない。
おまけに興奮剤を服用しているのか、正気や生気といったものが感じられずに這い上がってくる。
まるでゾンビだ。
舌打ちしながら、チャクラを無駄に使わぬように印を結ぶ。
肺に空気を一杯に溜めてから、一気に噴出した。
写輪眼で、辺りの様子を素早く確認する。
サクラの治癒チャクラが途絶えた。
廻り込んで班員を担ぐと、彼女に黒の双眼を向けながら叫んだ。
「―――こっちだ…!」
****
―――――――あの時。
里という里の忍たちが戦場に居て。
この写輪眼が行き着いたのは、倒れたときに仰いだ青い空だった。
それは、重たげな厚い雲のほんのわずかな隙間から見えた、あまりに小さい空だった。
傍らには、瀕死の深手を負った金髪頭が居て。
同じく倒れ込んでいた。
―――彼女は当然のように、泣いていた。
(………また、泣いてる……)
そして、その小さな空こそが、まるでこいつらだと気付いたとき。
その空は、次第に滲んでいった…。
つづく
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2012.8.10
もうちょっと続きます…!!
ほんとすみませんm(__)m
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