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誰そ彼の鬼
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帽子を被り、少しめかした恰好をした珀斗は、意気揚々と歩いていた。
彼が歩く度に、腰からぶら下がる鎖が音をたてる。
胸元を広く上けたシャツを着ており、下は緩めのスラックスだ。

隣で歩く宵闇は昨日と全く同じ服装で、唯一違うと言えば、短髪であることぐらいだろう。
理由は、珀斗が暑そうだと言ったから。
それだけで瞬時に短髪になってしまうのだから、人型とは何と便利なことだろう。

人に限りなく近づけているのか、うっすらと額に汗をかいている。
が、その表情は酷く涼しげだ。
相変わらず、然り気無い動作で珀斗を己の影に入れて、宵闇は平然と歩いていた。
身長差があるため歩幅が違うはずなのだが、宵闇の歩く速度は常に珀斗に合わされている。


「………珀斗、あれは何だ」

「車。乗り物だよ」

「ふむ…では、あれは」

「ん? ああ、バイクか。あれも乗り物。でもあれは主に一人専用の、かな」


そんなふたりは今現在、町中を歩いていた。

田舎で森が多いとはいえ、少し遠出すればこのように建物や店が軒並み並べる場所があるのだから、便利なものだ。
ここら辺で一番大きな駅の近くともあり、たくさんの人が行き交っていた。

ちなみに秋乃は主にここで買い物をしている。
歩くとかなりの距離ではあるが、齢七十にして車を運転する秋乃は、買い物時は車で往来していた。

車では十数分程の道のりを、今日は徒歩だったので時間がかかってしまったが。


「あれは」

「あれは電信柱。上の黒い線を繋いでいて、電気を送っている…のか? ごめん、詳しいことは分かんねぇや」

「いや」


きょろきょろと珍しそうにあれはこれはと質問してくる宵闇に、珀斗はそっと微笑んだ。
まるで、幼い子どものようだ。

しかし宵闇はあまりにも、人目を集めすぎた。

申し分のない顔の造形をしているのだ。見とれる者も多かろう。
事実、道行く人は必ず宵闇の顔に見入っていたし、年齢層の若い女性は揃って恍惚の表情を浮かべていた。

仕方ない、と思う反面、胸がざわりと波立つ。


「珀斗」

「……ん?」


声をかけられて思惟にふけっていた珀斗は、慌てて宵闇を見上げた。
不思議そうに小首を傾げる彼に、何でもないと首を横に振る。

その瞳に映っているのが己だけなことに、気分が上昇した。
我ながら現金な奴だと思う。


「どっか行って見たいとことかある?」

「特には。お前の好きな所へ行けばいい」


見上げて問えば、やんわりと首を振られる。
少し考える素振りを見せた珀斗は、昼食を取ることにした。
実は先ほどからずっと腹が減って仕方なかったのだ。


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あきゅろす。
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