誰そ彼の鬼 5 宵闇は元々、初代御役家当主に使役される式であった。 己が認め、そしてただ一人、頭を垂れる人間。 だから宵闇は今日まで、彼の最後の命を聞き入れてきたのだ。 どんなに不本意であろうと。 どんなに屈従せねばならぬとも。 彼が、己のただ一人の主が、願っていたから。 彼の血を継いでいると思えば、耐えるのは簡単なことだ。 彼だけが、己が降るに相応しい。 そう思ってきた。 「……くそ…」 毒づいた宵闇は額に手をあて、嘆息した。 どうすればいい。 珀斗を望むこの心を、欲しいと思うこの感情を、一体どうすれば。 そう言えば、お前はきっと、笑うのだろう。 ─────の好きなようにすればいいよ、と。 「…なあ、八穂」 ◆ ◆ ◆ 『私が死んだのち、お前はどうするのだ?』 『………考えたことはない。考えたくもない』 『それだといけないだろう。ちゃんと考えなさい』 『うるさい。俺はお前以外を主にするつもりはない』 『…強情なやつだ』 ふう、と白い吐息が、冬空にはきだされる。 男の傍らにいた鬼は、鼻を鳴らした。 『別に強要するわけではないが…独りは寂しいものだぞ』 『くどい。お前以外はいらないと言っている』 『……もの凄い殺し文句だな』 『………黙れ』 照れる男に、鬼はそっぽを向く。 恥ずかしいなど百も承知。 それでもこれが、鬼の本心だった。 『…いつか……お前が麾下につきたいと思う者が、きっと現れるさ』 穏やかな男の声音に、鬼は答えることなく沈黙を貫いた。 ◆ ◆ ◆ [退][進] [戻る] |