加速


アクセルを踏む。1mm、2mm、1cm、2cm…
自身の足に重心を乗せる度に二乗三乗と速度は加速する。あぁこの感じだ。拙者のリミッターを外す簡単な方法。風を全面に受けて直の左顔、肌に痛いくらいに叩く空気抵抗。あぁうずうずする。そうだ、この右脳(今は無きと考えれば露出しているミサイル、か)が揺さぶられるなんとも歯がゆい感覚。心地良いと思うと共に猛烈に襲う目眩と吐き気。だがこれがいいのだ。この感覚が、世の中でスピード狂を生む原因かと思えば、なんとも納得がいった。(ここまで絶賛しておいてなんだが、拙者が速度狂にならぬのは他に興があるからであろう。)

喧しい鼠…いや蝿とでも言おうか。先程からちまちま攻防を続けていてなんとも小さい。こやつらはその程度でしかこの競技を楽しめぬのか、価値を見いだせぬ屑ばかりだ、となんとも愚痴を吐く。
後ろからミサイルで狙われるがさらりとかわす。愚か者。拙者にミサイルやロケットで勝とうと言うのか?戯れ言をほざくのも大概にしろ。アクセルレバーを全開、目の前に迫る加速坂。現在順位は4位。坂に前輪が乗る、アクセルを踏む足に力が入る(とっくに限界値は超えている)目を開けていられないほどの突風。(拙者には天下の右目がある。)前輪が空回りし、想定以上の重力がかかり、車体は加速。後輪も加速坂に乗りいよいよスピードは最大値に。拙者自身にかかっていた重力は空中に投げ出された瞬間、浮遊力と共に上に向かってベクトルを変える。しかし体はベルトで固定されている上に拙者の体は(諸事情につき)特別重い。それでもベルトはギシッという嫌な音と共に固定されている部位(股関節及び下腹部に両肩)に食い込む。顔をしかめそうになる。理由は痛みだけではなくこの胃からくる嘔吐感。体重は(諸事情により)他人より重くとも内臓は通常通りだ。余裕のある内臓達は空間を埋めるように上に上がる。三半規管も揺さぶられ、平衡感覚もとれなくなる。しかしこの程度で音をあげるようじゃこのレースには参加できない。参加者達も次々に加速坂を登っていく。なんだか陽気そうな奴等を見ると中々この感覚も癖になるものだ。
高さも最大を観測。後は重力に従って落下していくだけ。ここが一番の狙い時。大概の操縦士は着地をまず確実に出来ることに意識を集中させる。そこが一番の隙、拙者は足元に設置していたRPG-7を構え標準を合わす。指をレバーにかけて、引く。発射時に発射口が反動で上に浮かないために左手で固定。構えから噴射までの時間は0,7秒といったところか。中々悪くない。……RPG-7の悪いところはとにかくリロードが手間がかかること。つまりこの入れ物(本体)はもう邪魔。自動的に手を離せば浮遊力により天文学的速さ(過剰表現)で上昇し…
「衝突」
拙者を狙っていた後方の操縦士の(視界どころか)フロントガラスに激突、ハンドルを大幅に右にきってしまい、あわや周りの下位を巻き込む大惨事に。なんて事が起こっているうちに射出したミサイルは無事3位を捉え大爆発。……喜んでいる暇なぞまるでない。一直線上に障害物が居ては全く意味がない。この後は大きな左旋回が待ち構えている。大きくハンドルを右にきり、車体を全力で右に向ける。前輪が地面と接地するまで残り10mといったところだ。その距離は信じられないほど早く近づき確実に迫っている。3m…2m…1m、前輪が接地する極寸前、ハンドルを左に全力できりアクセルレバーを手間に引き、ブレーキを踏む。車体は一瞬だけ停止する。ここぞというタイミングでアクセルレバーをMAXまで押し、アクセルを踏む。後輪は何回か火花を散らしながら空回りして、接地抵抗がタイヤと地面を捉えたとたん、加速。――ターボがかかる。3位(最早鉄屑)を抜かし自身が3位に成り変わる。後方では拙者を追撃しようと様々なアクションを繰り出しているがターボコンボで突き放す
。前方に2位が見えれば情け容赦もなくなる。大量のロケットミサイルを射出し、途中で飛行力を失ったミサイルが床に落ちて黒煙をあげる。車道が直線に差し掛かり、ブースターのスイッチを入れて目前にまで2位を追い詰める。2位がバックミラーを覗き眉を潜める。あぁ、そうだその表情こそ、最も愚かで情けない姿。喉をくつくつと鳴らし最大の侮蔑を向ける。

「片腹痛いわあ!!!!」

高らかに叫び、ゴールラインを超える。

レースは、あと一周。

***
片腹痛いわあって叫ぶジンさんを書きたかったんです
多大なる捏造及び勘で書いているのであてにしないで下さい。
書いてる時自分の知識の無さに腹がたちました(笑)

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あきゅろす。
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