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魔王は嗤う
August 11(sun) // 10:27 −再会−



− 再会 −



私は久しぶりにハリスバーグの懐かしい街角に立っていた。
フリーライターの私にとって、学生時代の思い出の地に足を運べる機会は多くは無いので、『約束』がなければ見て回りたいところだ。
…本音を言ってしまうと、本当はたまの休みにくらいは昼まで眠っていたかったりと不満の方が多かったのだが、まあ、ここは割愛しておこう。

ハリスバーグの街はペンシルベニア州の州都だけあってか、学生時代と変わらない活気が常に溢れている。
資源豊かなペンシルベニアの大地の恩恵だろうか。
因みに空は快晴。
ここ数日の曇天だった空はイヤミなまでに晴れ渡り、ジリジリと日が照っていた。
つまり、呼び出しのタイミングがあまり宜しくなかったワケだ。


…さて、そんな天気の中ででも、私が仕事疲れの体を引きずってまで街中に突っ立っているのは何故かというと。
「…ったく、間の悪さは変わってないらしいわね…」
例の『約束』のせいだ。
全てはかつての級友から珍しく入った一本の連絡が原因だった。
掻い摘んで言ってしまうと、昨夜に突然かかってきた級友の電話で呼び出しを喰らったのである。
最初は「友人だと思ってバカにしているのか」などと思ったが、よくよく話を聞いてみると、目的は「話題の怪事件のタレコミ」らしい。
私も小さな記事を書いた事件だ。
いくらイラついていても、ライターの端くれとしてはコレを見過ごすワケにはいかない。
フリーであるにも関わらず私に連絡をくれた彼に実は少し感謝したのは、まあ余談だ。



そして、約束の10時30分ちょうど。
「いやー久しぶりだねェ、リザ」
彼は時間キッカリに現れた。
白地にストライプの小綺麗なシャツに紺のニットタイ、黒のスキニージーンズという出で立ちだ。黒革の肩掛け鞄を小脇に抱えている。
正直、仕事帰りなのかプライベートなのかハッキリしない服装だと思った。
ただ、眼鏡は相変わらず骨董品のような金縁の丸眼鏡のままである。
……まだ使ってたのか。

「…普通、呼び出したなら最低5分前には来とくべきだと思うんだけど、ジャス?」
「ハハハ、いきなりツンケンしてるなー。まぁ夜中に電話入れたのは謝るけどさ。」
そんな挨拶代わりのやり取りで、私達は再会したのだった。





「というか今日の事の連絡さあ…聞きたかったんだけど…あなたeメールって知ってる?」
「失敬な…メールだと反応遅れるじゃないか。土曜の夜なんて爆睡してんでしょ?」
「大抵仕事してるわよ!!今疲れてんの!!」
再会から約10分後。
先程の場所からさほど遠くないオープンカフェで、私と彼…"ジャスパー=W=ルースゲート"、通称ジャスと久々の雑談を繰り広げていた。
「へェ…土曜の夜も仕事かー…。でも服装くらい気使いなよ」
「アンタがズレてんの。普通、普段着なんてTシャツとジーンズくらいなモンでしょうが」
「日本行ったときは街中の人が色んな服着てたけどなぁ」
「あー、ここアメリカね…」
間の悪さどころか、感覚のズレまで相変わらずらしい。というか、いい加減に用件を済ませて欲しい。
わざと連絡のことに話題を振ったりと、さっきから「話題を方向転換しよう」とさり気なく伝えるために躍起になってはいるものの向こうは一向にお構いなしだ。

と。

「で、"例の事件"の記事読んだよ。記者名がキミの名前だったんで驚いた」
神に思いが通じたのか、漸く本題に入ってくれるようだ。
ジャスは手元の肩掛け鞄から新聞記事の切り抜きを取り出した。



【『山中の巨大血痕、警察は人の血液と断定』
先日、ペンシルベニア州立ノースアパラチア大学付近の山中にて巨大な血痕が発見された事件において、警察は「この血痕の本来の持ち主は人間である」と断定したことが判明した。

また、同大学の警備員・ジェフリー=ホフマン氏(38)が事件前後に消息不明になっていることから、警察は彼が事件に何らかの形で関与しているとみて捜査を進めている。

血痕に残された遺留品と見られる血塗れの残骸の中には、警備員の制服と見られるズタズタの襤褸切れが見つかっており、"被害者は彼だ"という見解も上がっている。

尚、同大学は慢性的な学生不足による予算減少の影響で、警備員は1人ずつが全施設を一日交代制で見回っていたため、ホフマン氏が施設を出る姿を見た者はおらず、また図書館から紛失した品も無いという。
これを受け、専門家達はコレが劇場型犯罪の一端ではないかと懸念している。
記者:リザ=ポートマン】



「よくもまー、ウチの内部事情まで調べたもんだよ、全くさぁ…」
「フリーライターだもの、コレくらい調べなきゃ記事に使ってくんないのよ。だからあなたの情報には期待してるワケ。何せ例の大学図書館の司書だものね」
「はー、見上げた根性だねェ」
「黙りなさい、本の虫!!」
ジャス自身から本題に入ったので、私も本題に入ることにした。
「で?電話で言ってたタレコミって何なワケ?」
「あー、来ると思った」
「他に何があんのよ」
屈託なく笑うジャスに思わず言い返す。自分も随分短気になったものだと思った。
「いいかい?今日会いに来たのはタレコミじゃないんだ。本当は情報を渡すつもりは無い」
…今、なんと言った?
「…どういう意味よ?」
「要するに嘘なんだよ。まー、言うなれば君を呼び出す口実にちょうど良かっ…」
「いい加減にして!!」
怒鳴るついでに思わず立ち上がってしまった。しかし、周りの目なんて気にならない程、私は怒っていた。
「わざわざ出て来たと思ったら"嘘でしたー"なんて、ふざけるのも大概にしてよ!」
「落ち着いて。用が無いわけじゃない」
何故かジャスは普段とは打って変わった冷静な声で言った。先程までの抜けたような声は微塵も跡形無く身を潜め、しかも嫌に目つきが鋭い。
怒っている自分が間違っているような、よく分からないバツの悪い感覚がこみ上げて来て、更には怒鳴っている自分が何故か馬鹿らしくなって来た。
結局、何だか拍子抜けした私はまた椅子に座ったのだった。
彼は構わず続ける。
「…怒るのも無理ない。嘘で釣ったのは悪かったよ…。ただ言っておかないといけないことがあってね。
…僕はねェ、今日は君を"捕まえ"に来たんだよ」


相変わらずなヘラヘラ笑いなどとうに消えた、彼の低くなった声がそう告げた。




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あきゅろす。
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