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最弱魔族観察日記

27
「………」

意味がわからない。

わからないが、ろくでもないことであるのだけは、わかる。

「この間チサトが貸してくれた書物の中にね『自らの分身を作る』という術が乗っていてね。興味が出たんで、やってみたんだよ…」

フェリスの思考が一瞬、停止した。

「ぶ、分身…?お前の?」

(それってつまりは…)

魔王+分身=ケダモノが二人。

「嘘だーーッ!!」

恐ろしい方程式に、フェリスは本日何度目かの悲鳴をあげた。

魔王が二人になる、それはつまり自分に降り懸かる災難も倍になるということに他ならない。

一人だけでもこの状態なのである。

それが倍になるということは、つまりいつもフェリスが受けているセクハラ(とかいうレベルを遥かに超えているような…)も倍になるということだ。


(こ、殺される…っ!!)

フェリスがそう思ったのも、フェリスがおかれている現状を見れば無理もないことである。

「冗談じゃねえよ!!こんな変態が二人とか、ありえねえ!!」

叫びながらも、少しでも魔王から離れようと後ずさる。

しかしいくら広いと言っても、所詮はベッドの上である。

すぐに端に行き当たった、しかし、それに気付かなかったフェリスはベッドから転げ落ちた。

「おわっ!!」

一瞬の浮遊感、次いで襲うであろう痛みに備えて、ギュッと目をつぶるフェリス。

しかし

「ふえ…?」

タイル地の床に身体が接触する前に、何者かに抱き留められる。

フェリスがゆっくりと金眼を開く。
と、目の前には藤色の瞳の非常に整った顔が…

「ぎゃーーーッ!!」

慌てて飛び退くフェリス。

そのせいで、せっかくさっきは助かったのに、結局床に背中を打ち付けるはめになる。

「おやおや、大丈夫かい?」

痛みに呻くフェリスに、ベッドの端に腰掛けている魔王が声をかける。

いかにも心配しているような口調だが、半狂乱のフェリスの様子が面白かったのか、その声には明らかに笑いが含まれていた。

「まったく、相変わらず落ち着きのない子だねえ…」

(誰のせいだ…っ!!)

フェリスの涙が滲んだ眼から発信される恨みがましい視線に、魔王は実に晴れやかな笑顔を浮かべ

「影だと言っただろう?自らの影が自分と異なる姿をしていると思うのかい?」

魔王はそこまで言って、表情を少し沈んだものに変え

「でも…同じ顔が目の前にあるのは、思ったよりも気分が良くないねえ…」


無言でフェリスを見つめ続ける黒フードに、何とも複雑そうな声でポツリと呟いた。

その呟きは自分のことで手一杯のフェリスの耳に届くことなく、消えていった。




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