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最弱魔族観察日記

11
「…………」

フェリスはその建物を前に立ち尽くしていた。

黒フードが中に入って行ったのは10分ほど前だっただろうか。

それを目撃したフェリスは、すぐに自分も続こうとした。

しかし、そこで目に飛び込んできた看板に、ピタリと足を止めた。


『ご休憩¥5000 一泊¥10000 ホテル カルボナーラ』


「た、高っ…」

言葉に詰まるが、そういう問題ではないことに気付き

「だ、誰と泊まってんだ…?」

いや、そこも問題ではないだろう。
やはりフェリスの感覚は少し(かなり?)ズレているようだ。

「ってか、カルボナーラって…」

美味しそうだが、ホテルの名前にはあんまり向いていない気がする。

あまりのツッコミ所の多さに、フェリスは困惑した表情でホテルを見上げた。

名前はしつこそうだが、外観は実にあっさりとしている。
飾り気のないその灰色の建物はホテルというより、ビルと呼んだ方が相応しいだろう。

「入らないのかい?」

いきなり背後から声をかけられ、フェリスは驚きのあまり顔面から地面に突っ込みそうになるが
「おっと」

腕を掴まれたために、何とか踏み止どまる。

ドキドキする胸を押さえ、後ろを振り向く。

「いや、すまないね。驚かせて」

そこには、頭から牛の様な立派な角を2本生やした中年の男が頭を下げていた。

そしてその隣りには牛男にしなだれかかるようにして立つ少年。
やわらかそうな栗色の長い髪を後ろで束ねている。

少年は何故か険のあるまなざしをこちらに向け、「ねえ、早くいこうよぉ〜」と少女のような甘えた声を出す。

「少し待ちなさい…ところで、君ひょっとしてこの建物に入ろうとしていたのかね?」

少年を見ながら(何だ、この男女…俺に喧嘩売ってんのか?)と考えていたフェリスは、牛男に声をかけられ慌てて頷く。

確かに少年は可愛らしい顔立ちをしていたが、今の自分が少年よりよっぽど少女に見えることをスッカリ忘れているらしい。

「見た所、1人のようだけど…ここは最低でも2人以上でなければ入れないよ。知っているのかい?」

「えっ…」

「その様子だと、知らなかったようだね」

驚くフェリスに、牛男は顎に手をあて、少し考え込む様な素振りを見せ

「じゃあ、こうしよう。もし君がどうしてもここに入りたいと言うのであれば、私たちと一緒に入れば良い」

さも名案だと明るく言い放つ。

「いいのか?」

「構わないよ、どうせ私たちもここに入るつもりだったんだ。ついでというやつだよ」




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