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最弱魔族観察日記

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普通ならここで店員などに助けを求めるべきなのだろうが、弱いくせに変にプライドだけは高いフェリスにはそれは無理な話である。

何とか持ち上げようと歯を食いしばり、細い腕に血管がうくほど力をこめるが、カゴは1ミリたりとも動かなかった。

周りの女性たちは、途方にくれるフェリスを気にとめることもなく、缶詰が山盛りになったカゴを両手に1つずつ持つとレジへと歩いて行く。

その自分よりはるかに雄々しい後ろ姿をただ黙って見送るしかなかったフェリスは「チッ!!」と舌打ちをすると、苛立たしげに柱を蹴りつけた。

ミニスカートの裾が捲れ上がり、あらわになった白い太ももに周りの男たちの視線が集中する。

しかしもちろん、あらゆる意味で鈍いフェリスがそれに気付くはずもなく。


ただ、ジーンと痺れた足に「クソッ」と毒づくと悔しそうに顔を歪めた。

そのフェリスの表情に、男たちが次々とノックダウンされていく。

そんな風に見ているくらいならさっさと声をかければ良いのに…と思うだろうが、こうしてジッと見ているとフェリスの身体から気迫のようなものが溢れ出ており、それが周りをためらわせていた。


しかしそんなフェリスに背後からスッ、と音もなく近付く者がいた。


その者は、ハッキリ言ってとても怪しかった。


童話に出てくる悪い魔法使いのようなフードのついた黒いローブを身に着けており、そのフードを深く被っているため、顔どころか性別すら分からない。

その上、時折上半身が左右にユラユラと揺れている。

魔界の電灯は、電気ではなく魔力に反応して光を発する性質を持つ鉱石を使用しており、魔界に魔力が満ちている限り停電になることはないのだが、その異様な姿は明るい光が満ちた店内をそこだけ切り取ったかのように、黒く浮き上がっていた。

しかしそんなに悪目立ちしている黒フードにも、カゴをどうやって運ぶかで頭がいっぱいのフェリスは、やっぱり気付かない。


ここまでくると、もはや鈍いとかいうレベルの話ではなく、いっそ神経がないと言った方が相応しいかもしれない。


その鈍さに助けられ、首尾よくフェリスのすぐ後ろまで近付いた黒フードは、手と同じくらいまで長く伸びた爪をフェリスの肩にかけた。

さすがに気付いたフェリスが慌てて後ろを振り返るが、あんまり勢い良く振り向いたせいで、いつもとは違う長い髪がひろがり、視界が遮ぎられてしまう。




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あきゅろす。
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