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最弱魔族観察日記

12
レキが魂を込めて叫ぶが、残念ながら今回の呪文はとりあえず合っていたらしく――辺り一面が急激に白く染まりだす。

「クッ…これじゃ何も見えないぞ…おい、フェリス!!無事か!?」

己の指先すらまともに見えない程の濃密な煙――いや、全く煙たくないのだから、霧と言った方が良いのかもしれない――に、レキが危惧を抱く。

失敗するのは良い。
きちんと成功しても、まぁ良いだろう。

…いや、本当はあまり良くないのかも知れないが、どうせフェリスはレキの言うことなど全く利かないので、これは仕方ないとするしかない。

最悪なのは『中途半端に成功』してしまうことである。

魔王は何が起こっても絶対に大丈夫だろうが、万が一フェリスに害が及びでもしたら、命に関わる。
勿論、この場合の命とは術者であるところのフェリスではなく、強引に巻き込まれただけのレキのモノである。

例え命令に逆らえずにそうなったのだとしても、損をするのが立場が下の者であるのは、古来から決まっている。

「おい、フェリス!!無事か!?無事じゃなくても、せめて返事してくれッ!!」

濃霧を両手で掻き分けるようにして前へと進む。

必死に耳を澄ますが、聞こえて来るのは己の必死の声だけで、探し人の気配すら感じ取れない。

分厚い霧がカーテンのように全てを覆い隠してしまっていた。

いっそ魔力で霧ごと吹き飛ばしてやろうかとも考えたが、この霧が一体どのようなモノかわからぬ以上、下手なことをする訳にはいかない。

もしこの霧が魔力と反応して爆発でもするような性質を持っていたら、目も当てられないことになってしまう。

「フェリス、どこだ!?どこにいる!!」

今まで瞬きをするのと同じ感覚で己の魔力を自在に操ってきたレキにとって、魔力が自由に使えないこの状況は慣れないモノであると同時に、かなりのストレスである。

レキの声は緊張を孕んで高くなり、表情は険しさを増していく。

しかし、視界を遮る霧が方向感覚すら鈍らせるのだろうか。
真っ直ぐにフェリスに向かって進んでいたつもりだが、一向に近付いている気がしない。

というか、いっそここまで気配がないのだから、目標からは寧ろ遠ざかっているのだと考える方が自然かもしれない。

(こうなったら、一か八か…賭けてみるしかないか)

例えこの辺り一帯が焼け野原と化そうとも、まず間違いなくフェリスは助かる。(無傷かどうかまでは不明だが)

これはレキの希望的観測ではなく、歴然とした事実だ。

だがしかし。

そうなった場合、自分はおそらく無事では済むまい。
命があれば奇跡だろう。

(仕方ないな…フェリスを止めれなかったオレ様の責任だ)

こういったどっちに転ぶかわからないような場合、フェリスは大抵悪い方を引き当てる。
それはもう、いっそ才能と言って良い程の割合で。

それを知っていながら、止めなかった――一応口では止めたとしても、結果として止められなかったのだから、止めなかったのと同じである――己が悪い。

――悪いのだと、思う。
そう思わなければ、理不尽さで泣き出してしまいそうになる。

「よし、やってやる!!」

萎えそうになる自分の気持ちを奮い立たせるように叫んだレキは青い双眼を閉じ、精神を集中する。

幸い、莫大な魔力を持つ癖に――というより、魔力が強いが故になのか――大味な技の多い他の連中に比べると、レキの術は『まだ』繊細で融通が利く方である。

上手くいけば被害は最小限で済むかもしれないので、その為の努力を惜しむつもりはないレキであった。

必要最低限だと思われるだけの力を使って魔術を練り上げたレキが、魔力を解放した。

属性や方向を敢えて設定しなかったソレが、術者を中心として渦巻き、静かにしかし素早く拡がっていく。

幸運なことに、爆発や何やらの兆候は感じられない――今のところは。

このまま、緊張の為に実際の何倍にも感じられる時間が経過すれば、眼前にあるのは生い茂った木々や乾いた地面に描かれた魔方陣。
霧に覆われる前と、ほぼ変わらぬ光景がある――筈であった。


果たして実際にはどうであったのかは……青を通り越して土気色になったレキの顔色を見ればわかるであろう。



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