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最弱魔族観察日記

11
ある程度の距離を取るには取ったが、何せモノがモノだ(オマケに実行するのはフェリスだ)

何が起こるか全くわからないので、レキは念のために自分の周りに透明な膜のような状態の魔力の壁を作った。

薄くとも将軍クラスであるレキの濃密度の魔力で作られているので、凄まじく頑強である。

これで少々のことが起こっても大丈夫だろう(無論、何事にも例外はあるが)

膜越しにフェリスの細い背中を見ていると、まるで気迫のような魔力が立ち昇ってきているように見える。

勿論フェリスに立ち昇る程の魔力などある筈がないので、ただの錯覚でしかないのだが。

丸みを帯びた肩が吸い込む息に合わせ、上がった。

限界まで吸うと、溜め込んだ息を一気に放出する――

「いあ!いあ!はすたあ「やめろおぉぉ―――ッ!!」

右手を振り上げ、声高々に呪文を唱えようとしたフェリスの、腕にスッポリ入る華奢な躯を、絶叫をあげたレキが後ろから羽交い締めにする。

あまりに力を込め過ぎて、腕の中からギチギチと何かが千切れかかるような音が聞こえているし、限界を越えたスピードで走ったせいで、自分の足もガクガク痙攣している気がするが、今はそんなことよりフェリスの暴挙を止めることの方が大事だ。

「それはマズイ、本気でマズイ!!マズ過ぎる!!せめて伏せ字にしろッ!!」

呪文を伏せた時点で、それは既に正式な呪文でなくなるような気がしないでもないが、この際細かいこと言ってる場合ではない。

レキはゆっくりと腕の拘束を解く。
フェリスの方は躯がフラフラしているが、どうやら命に別状はないようだ。

「なぁ、本当にその呪文で合ってるのか?もう一回確認してくれよ」

今にも泣き出しそうな――いや、既に半分以上泣いている――情けない声で頼むと、そんなレキの姿に同情したのか、渋々といった風情でフェリスが差し出された本を読み返す。

「……ど、どうだ?」

もし呪文が合っていたら、どんな手を使ってもフェリスを止めよう――そんな決意をするレキの目の前で、ページを捲るフェリスの指が止まる。

「……レキ」

「は、はい…何でございましょうか……?」

「何で敬語?……いや、それは別に良いか……お前、良くわかったな」

「ッ!?じゃ、じゃあ――」

絶頂の不安という暗闇の中に射し込んだ光明に、平均よりも随分と端整な顔を輝かせるレキ。

「ああ、読むページが一ページ後だったみたいだ」

「そ、そうか…でもその呪文自体は本に載ってんだな…流石はチサトの本…何て危険なんだ」

「あのまま唱えてたら、手足がとにかく多くてやたらグロい魔神が喚び出されるとこだったからな。助かったぜ」

「そうか…良かったよ。色々な意味で…」

「……ん?いや、待てよ…アイツを呪うんなら、寧ろそっちの方が……」

「ちょっと待て、フェリス。大事なことを忘れてるぞ――あの方が、見た目がちょっと気持ち悪いぐらいでどうにかなると本気で思うのか?」

何だか話が誰にとっても不幸な方向へ行こうとしていたので、レキが咄嗟に横から口を挟む。

「……それもそうか。確かにアイツの悪趣味は普通じゃねぇからな」

(ああ…何せお前を偏愛されているくらいの悪趣味だからな)

これがもしフェリスの見た目だけの話なら、寧ろ良い趣味だと言われるのだろうが。

「んじゃ、改めて呪文を言うぞ。さっさと下がれ。ハンバーグにして喰うぞ」

「あれ、何かさっきより脅しが凶悪化してるような……まあ、良いか…」

頭を項垂れるようにして離れるレキの背後から、フェリスの澄んだ声が飛んでくる。

「―――輝け!!俺のジャスティスッ!!」

「さっき止めた意味がない!!ってか、何を呼び出す気だあぁぁぁぁーッ!?」



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あきゅろす。
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