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最弱魔族観察日記

7
自分の目に突然異常が発生したのかと、取り敢えず目を擦り、その後で何度も瞬きを繰り返すレキ。

準備万端、さぁこれで大丈夫……と、もう一度手の内の本の中身を確認すると――やはりそこに広がっていたのは、レキが今まで目にしたことのない文字の羅列。

いや、より正確に説明するならば、文字に見ようとすれば、百万歩ほど譲ればどうにか『文字っぽい』というレベルの『何か』である。

「……フェリス、お前チサトから借りた本に落書きするなんて、勇気あるなぁ」

「何でそうなる。テメェが無知で理解出来ないからって、他人もそうだと思うんじゃねぇよ」

「いや、だって…そうでもなければ納得出来ないっていうか…」

真顔で正論を言われても、まだレキには信じられなかった。

「本当にこんなのが読めるのか?」

疑いの眼差しにフェリスが当然だ、と細い腰に手を当て、ふんぞり返るようにして頷く。

「何で?」

「何でって…そりゃ…昔、見たことあるから、だろ?何かそんな気がする」

「昔って…何か大雑把な答えだなぁ…」

つい先程までとは違い、フェリスは自分でもあまりわかっていない手探り状態で視線を泳がせながら答えている。

確かにレキは魔族としてはまだ若い部類に入る。
対してフェリスは、そら恐ろしい程に長い寿命を持つ魔族たちの中でも、かなりの古株らしい。

レキはあまり詳しくは知らなかったが(何しろ己が生まれる随分と前の話だ)アルフを始めとする古参の魔族たちがそう言うのだから、多分真実だろう。

当然、レキが知らなくてフェリスが知っている事柄など、山のようにあって然るべきなのだが――フェリスは、何故かそれを他者に信じさせない、何とも稀有な存在であった。

見た目が若いからというだけでなく、何というか……精神的な落ち着きに欠けているからかもしれない。

「ハァ…まぁ.いいか。それじゃあ、立派で博識なフェリス様。無知なオレ様に、この本に何て書いてるか教えてくれよ」

色々言いたいことはあったが、取り敢えずコッチが先だと優先順位をつけたレキがそう言いながら、フェリスに向かい本を差し出す。

「おう、良いぜ。心して聴けよ?」

受け取った本のページをパラパラと捲りつつ、フェリスがニヤリと頬を捻りたくなるような小憎らしい笑いを浮かべる。

少し下手に出たのが良かったのか、黒魔術とやらが一向に進行していないにも関わらず、機嫌は良さそうだ。

「えっと、まず…目次「そこは飛ばして良いから!!その黒魔術ってのに必要な箇所だけで良いよ!!」

さっきパラパラ捲っていたのは何だったのか、一ページ目から音読しようとするフェリスをレキが慌てて止める。

いくらレキの心が広くとも、そこまで付き合ってはいられない。

「チッ…それなら最初からそう言えよな…じゃあ、読むぞ。『第三章、それじゃあ、実際に悪魔族を呼び出して相手を呪ちゃおう☆』」

「内容は呪いなのに、文章が妙にファンシーなのが何かイラッとくるな…その本、中身はずっとそんな感じなのか…?」

だったら聴くだけでも相当に辛そうだ。
内容を想像して憂鬱な気分になり、実際に聴く前から、レキは躯の底から込み上げてきたように重い溜め息を吐いた。

しかし、この時点ではまだレキには余裕があった。

そう――まさか後に、あんな恐怖のどん底に叩き落とされることになるとは、彼は予想もしていなかったのだ。



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あきゅろす。
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