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最弱魔族観察日記

35
フェリスが城で魔王から、かなり激しい性的嫌がらせ――行っている本人にそんなつもりはないが、得てしてセクハラとはそういうものだろう――を受けていた頃。


岩と倒壊した石柱に囲まれた閉鎖された空間で、二人の男が向かい合っていた。


「……お久し振りです」

その一方、茶褐色の目と髪の男が重い口を開くと

「そうであったかもしれんが、だからといって何が変わる訳でもなかろう」

自分と同じく茶褐色の髪を整えながら、おざなりな返事を返してくる青年に、男の眉間に刻まれた皺が深くなる。

「……貴方がそのような方であるというのは承知しておりますが、真面目に話を聞く振りくらいはしていただけませんか?……血をわけた『息子』に、久方ぶりに会ったのですから」

含みのある言葉に、青年は息子とは異なる赤銅色の目を向けた。

「…お主の口からそのような言葉が出てくるとはな。時の流れとは、こうもヒトを変えるものか」

「……貴方は変わってはおられないようですがね」

「フム。今のところ、変える必要性は感じておらぬな。必要性がないのであれば、それは即ち変わる筈がないということじゃ」

――慣れないなりに、精一杯の皮肉を込めたつもりであったが、まるで相手に通じていないことを悟り、深い溜め息をつく。

(この方がこういう方であるのことは理解していた筈なのに ……何を期待していたのだ、私は…)

「それで…お主、わざわざこのようなところまで来るんじゃ。ワシに何か用があるんじゃろう?今のワシに時間的余裕は乏しいが、他ならぬ将軍筆頭の話ならば聞いてやらぬでもないぞ」


『息子』だからではなく『将軍筆頭』の言葉ならば、という青年に、男――アルフステリオン・グレナダの胸の中を諦めとも失望ともつかぬ思いが駆け巡る。

しかし、今はそれについて議論している場合ではない。

自分は彼の息子としてではなく、将軍として――魔王の補佐として、今此処にいるのだから。

「……ならば、単刀直入に申します。今後一切『あの方』に余計な手出しはなさらないで下さい」

「…あの方?さて、お主が何の話をしているのか、ワシには全くわからぬが」

「――父上!!あの方は、現魔王陛下の伴侶です。貴方がそれを知らぬ筈はないでしょう。無礼な行いは、何があろうと決して許されません!!」

惚けようとする父親に、アルフは思わず声を荒げる。

「……魔王陛下の伴侶だから…お主が気にかけるのは、果たしてそれだけが原因かのう?」

「……どういう意味ですか」

自分より随分と年若く見える父親の顔を窺い見て、静かに問う。

「そう隠すでない。ワシとて、それなりの長きに渡り、あの方を観察してきたのじゃ。その意味…わからぬ程、お主は愚かでなかろう?」

口角を吊り上げ優雅に笑うと、青年は横へとチラリと視線を流した。

つられるようにアルフも其処を見やったが、アルフの目には特におかしいモノは見当たらない。

ただゴツゴツとした岩と――何か大きなモノが抜け出た跡のような、大きく窪んだ岩肌があるだけだ。


説明を求めるようにアルフは父親を見たが、彼はもはや息子に毛ほども関心を向けてはおらず――目に狂信的な光を宿して叫んだ。

「面白い…実に興味をそそられるのう…これ程に研究のしがいがあるモノはいつ以来か…追究せねばならぬ……たとえ、この身が潰えようとも!!」



――潰えてしまえ、お前なんか。

アルフは冷たい眼差しを父親に向け、彼らしくない乱暴な口調で呟いた。



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あきゅろす。
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