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最弱魔族観察日記

18
「愚かとしか言い様がないな」


これが、フェリスが事情を話し終えるまで沈黙していた男の第一声である。

どうやら他者に対する気遣いなど持ち合わせていないらしい男は――まぁ大概の場合において変人はそういうモノであるし、だからこそ変人と呼ばれるのであろう――全く躊躇することなく、そう言い切った。

「テメェ、ちょっとは言い方を気にしたらどうなんだよ」

「どのように言ったとて、お主が愚かである事実は変わらん。ならば何を気にする必要があるんじゃ」

美青年と言って良い容姿と声に似合わぬ老けた物言いの男は、面白くなさそうに肩を竦めた。

「ところで…お主はいつまでそのような格好でおる気じゃ」

と、いきなり男が優雅な仕草で不躾に人差し指でフェリスを指差した。

「は?」

唐突過ぎる話題の変化に口を開けるフェリスを、男はその赤銅色の瞳で射抜くように見詰めてくる。

その視線は、何故か不必要なほどに鋭い。

確かにフェリスの服は今だ乾いてはおらず、裾からはポトポトと水が滴っていたが、この男がそんなことを気にする筈などないし、そもそも替えの服など持っていないフェリスには着替えることなど出来ない。

「うるせぇな、ほっとけよ。どうせそのうち乾く」

結局、心底どうでも良さそうに素っ気ない声音で言って顔を背ける。

「服を寄越すが良い。隣人のよしみじゃ、乾かしてやろう」

「ほっとけって言ってんだろ」

コイツに借りを作るなど、絶対に嫌だった。
代わりに何を要求されるかわからないではないか。

「心配せんでもお主が裸体になったとて、性交渉を迫ったりせぬよ。もっとも、お主がどうしてもと言うのなら考えんでもないが…」

「だ、誰がそんなこと言ってんだよっ!?俺はただテメェの手を借りるのが嫌なだけだ!!」

「しかし…お主も、何もこのような場所で発情せんでも良いじゃろうに……ここを出てからではいかんのか?」

「テメェの耳は一体どうなってんだっ!?…わかったよ、そんなに乾かしたいんなら乾かせよ!!」

何一つピントの合ってない言葉を吐く男との会話に思わず自棄になったフェリスは、水で肌に貼り付いたシャツを、もたもたと手間取りながらも脱いだ。

そして濡れたままのそれを、怒りを込めて相手に思い切り投げ付ける。

水で重みが増しているとはいえモノがシャツのせいか、貧弱過ぎるフェリスの力でも辛うじて男まで届いた。
男は危なげ無くシャツを掴む。

フェリスは続いて、これまた濡れて脱ぎにくいズボンを脱ぐ。

一歩間違えればストリップショーに成りかねないシチュエーションだが、そのあまりの要領の悪さのせいで全てが台無しである。
それでも見苦しくはないのは、フェリス本人の非常に恵まれた容姿のお陰であろう。

忍耐とか思慮深さとか腕力とか体力とか――足りないモノだらけだが、取り敢えず色気や性的魅力だけは有り余っているらしい少年は、脱ぎたてのズボンを男に向かって力一杯投げた。

シャツよりも重いせいか、こちらは男まで届かず失速し、地面にベシャリと落下したが。


残すは下着のみだが、流石のフェリスもそれを脱ぐのには、かなりの躊躇いを感じた。

しかしまた先ほどのように、この男を意識しているのだと思われるのも耐え難い。

悩むフェリスの頭にフワリ、と降ってきた物。

それはフェリスの華奢な躯をすっぽり覆う大きさの布であった。

「それで躯を包めば良いじゃろう」

一体どこから取り出したのか、布を放って寄越した男と、頭から剥がして手に取った布とを何度も見比べた。

何か言おうとして、果たせず口を閉じる。

暫くして

「……そこまで言うんなら…し、仕方ねぇから使ってやる……」

地面を見詰めてボソボソと呟くフェリスに、男は「…まあ、ワシは別に良いがな」とフェリスには意味がわからぬことを言って、再び紅茶を飲んだ。



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