最弱魔族観察日記
17
耳慣れた、しかし全く懐かしさを感じさせない、やたら金属的な笑い声は、フェリスの怒りの炎にとにかく油を注ぎまくる。
「偉そうに言ってやがるけどな…テメェが持ってくんのは、食ったことがねぇどころか、今まで見たこともないようなモンばっかだったじゃねぇかよ!!もし俺が犬だったら、真っ先にテメェに噛み付いてるだろうよ!!」
「そんな明らかに怪しいモノに、全く躊躇することなく噛り付いていた者の言葉とは思えんな。怪しいと思うなら、食さねば良いだけであろうが」
「どうにかして止めろよ、そういう時はっ!!」
男もかなり滅茶苦茶なことを言っている筈なのだが、フェリスの発言が理不尽過ぎるせいか、信じられないことにフェリスよりも発言が真っ当な気がする。
「……お主と話しておると、ワシの脳も退化していくようじゃ」
「いちいちムカつく言い方しやがるヤツだな…素直に馬鹿が移るって言われた方がまだマシだ」
「…お主、気付いておらぬかも知れんが、その言い方では自分が馬鹿であると認めてしまっておるぞ」
「うぐ…い、いちいち細かいこと言うんじゃねぇ!!」
案の定、気付いていなかったらしいフェリス。
白い頬が真っ赤に紅潮し、美しく輝く金の瞳には恥辱(と表現しても、まぁ、間違いではないだろう)の涙が滲む。
穴があったら入りたい心地だが、今現在いる場所が既に穴の中。
実にフェリスらしい、どこまでも間抜けな状況である。
「……ところで、お主は何故このような所におるのじゃ。ここはお主のような者が足を踏み入れるような場所ではないぞ?」
そんなフェリスの様子に流石に憐憫の情が湧いてきたのか――中身はアレでも、とにかく見た目だけは美麗なので、か弱く見えなくもないのだ――男はその話題にはそれ以上触れずに話題を変えた。
「……俺みてぇな、ってのが気になるが…別に、俺だって来たくて来た訳じゃねえよ」
伸びやかで落ち着いた声音に促されるように口を開くが、しかしその話題も内容が内容だけに、決して気分が良いモノではない。
空きっ腹を抱えて苦しんでいたところに、全く覚えのない冤罪をかけられ――しかもその罪状は食い逃げである――辛くも逃げ出した森では豪雨にあい、道に迷った挙げ句に地割れに転落。
奇跡的に無傷で助かったと思えば、脱出は困難で、道を探してさ迷った結果、頭と発言の異常な変人とこんな場所で二人きり。
大安売りかと思える程のフェリスの不幸っぷりはいっそ見事だが、しかし何故か悲壮感よりも滑稽さが先に立ってしまう。
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