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最弱魔族観察日記

15
果たして今日だけで、何度気を失ったのか。

魔界の記録に残りそうなほどに(記録を付けている者がいるとしたら、だが)気絶を繰り返していたフェリスが、やはり今日何度目かに意識を取り戻した時、視界一杯に顔があった。

「うぎゃあっ!!」

口から心臓が飛び出そうな程驚いたフェリスは、彼にしてはとても機敏な動きでガバリと起き上がると、四つん這いでセカセカと変な虫のように手足を動かし、相手から距離を取る。

今の状況を詳しく説明するならば、仰向けに倒れていたフェリスの上に覆い被さるようにして、何者かが顔を覗き込んでいたということになるのだが、取り敢えず意識のない者の上に断りなくのし掛かるような輩は、フェリスの経験上、ろくでもない奴ばかりだったので、この対応は間違っていない筈である。


「だ、誰だ、テメェッ!?」

フェリス的に安全圏と思われる分だけ離れると、警戒心も露にえたいの知れない変質者(フェリスの中では既にそうなっている)を睨み付ける。

その見てくれから、何となく全身の毛を逆立てている仔猫のような印象を受けるが、実際はそれより遥かにひねくれていて、且つ無力な存在であるフェリスの敵意の隠った眼差しを受け、変質者は顎に手をやりつつ、考え込むような素振りを見せた。

光源は光る苔だけなので、相手の姿はハッキリとわからない。
驚愕で、顔をしっかり見ることも出来なかった。

しかしその声から、男であるのは確かだ。
若そうだが、魔族の年齢は外見からはわからないものなので保留にしておく。


「フム…誰だと聞かれると少々困るな…何故なら、己が何者かというのは自己の判断と他者の判断とでは差異が生じるものであるからして――…」

この瞬間、フェリスの相手に対する認識は『ただの変質者』から『頭のオカシイ変質者』へと変貌した。

フェリスの形良い額に、汗がジワリと浮かぶ。

ここにいてはマズイ、もっと遠くへ行かなくては……そう思うものの、では何処へ行けば良いのかと問われれば、全くわからない。
一見したところ、自分が通ってきた以外の通路を見つけられないからだ。

ならば来た道を戻れば良いのかも知れないが、運の悪いことにその通路は変質者の真後ろになっており、戻るには変質者の横を通らなくてはならない。


前にも後ろにも進めない状況に、フェリスは歯を噛み締める。

(こうなりゃ、一か八かアイツの横をすり抜けて……)

勝機は薄いかも知れないが、このままコイツの毒牙にかかるよりマシだろう(いつの間にか、そういう設定になっている)


深く息を吸い込み、いざ走り出した。
フェリスにしてはなかなかのスタートであった。

そのまま男の横を抜けようとした、その直後――


「まあ、あくまでもお主にとってワシが誰かと問うならば――そうじゃな、隣人、ということになるかと思うがな――こりゃ、どこへ行こうというんじゃ」

言われてみれば、何やら見覚えのあるような顔の男に、襟首をグイッ、とひっ捕まれてしまった。


「ウグッ!!」

そして、当然――フェリスの細い首が絞まることになった。



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あきゅろす。
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