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最弱魔族観察日記

14
フェリスは猫が顔を洗うかのように、顔に付いた泥を手の甲で拭いつつ、首をひねっていた。

乾いた泥は細かい破片となってフェリスの肌からパラパラと剥がれて行き、その下から、泥パックの必要など絶対ないであろう、信じられない程に滑らかな手触りの肌が現れる。

当然のことながら、その奇跡のような肌の持ち主は、自分の肌になど興味も関心もなかったのだが。



迷走の終わりは、城の大広間のように拓けた場所であった。

その時はわからなかったが、辿ってきた道はどうやら緩やかながら下へと向かう坂道であったようで、落ちた時に見たよりも天が高い。

雨が入り込むことがないのか、乾いた地面から大小様々な大きさの白っぽい岩が、不規則に身を覗かせている。

フェリスは気付いていなかったが、その岩は一部に、加工されたように滑らかな曲線を描くモノや何かを彫り込まれたようなモノがあり、時が経ち倒壊してはいるが、元は列柱であったと思わせる片鱗が確かに存在していた。


見る者によっては朽ちた遺跡の跡地にも見えそうだが、フェリスにとっては『何かやたら広い場所』でしかない。


「…何だ、これ……?」

そんな場所の壁面に、無駄に長いフェリスの人生(魔族なので魔生と言うべきか?)の中で一度も見たこともないモノが、ズッポリとめり込んでいた。

――まぁ、ハッキリ言ってしまうと、フェリスは自分だけの局所的世界に生きているようなものなので、意外と世間の常識や流行りを知らなかったりする。
だから、実はそういったモノに遭遇するのは、そう珍しいことではなかったりするのだが。


粗方の泥を落とし終えたフェリスは、取り敢えずその物体に近付いてみる。

そんな、何だか全くわからないモノに近付くというのに、その姿に警戒心は皆無である。

ここまでくると、もはや尊敬する者も出てきそうだ(ただし、羨ましい者はいないだろう)


「石で出来た人形…?」

フェリスの知識では、そうとしか表現の仕様がない。

――もっとも、頭だけで一メートル近い物体を、果たして人形と一纏めにして良いのかは、かなり疑問だ。

それに人形にしては、その造作からは見事に可愛げが欠けている。

ヒトを呪う為のモノであるとすれば、及第点だろう。
ただし、持ち運びには向いていないので減点である。

「……な、何かスゲー悪趣味な人形だな……こんな不気味なの、作ったヤツの顔が見てぇぞ」


「フム。どうやらお主の貧相な感性では、この高尚さが理解出来ぬようじゃな」

「ぬわああぁあぁぁっ!!?」


答えを期待して言った訳でない独り言に(というか、独り言の大半はそうだ)奇妙に甘ったるい声が返り、フェリスはかなり驚いた。



そう、少なくとも――意識を飛ばしてしまう程度には。



フェリスは、操られていた糸を突然切られたマリオネットのようにあっさりと、前のめりに倒れ込んだ。




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あきゅろす。
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