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最弱魔族観察日記

13
奥へと続く道は、想像していた程には暗くなかった。


ヌルついた壁面のそこかしこにぼんやり白く発光する苔が広がり、フェリスの道行きを淡く照らし出している。

とはいえ、やはり未知の場所を探検するには十分な明かりとは言えない。


一度滑ってしまって岩肌で頭を打ちつけ、苦悶することになってからは慎重に歩いていたフェリスが、来た道を振り返った。

こんな状況では正確な時間などわかろう筈もないので、歩き始めてから一体どれくらいの時が経ったのかはわからない。
それでも、かなりの距離を歩いたように感じていたのだ。

しかし――視線の先に自分が最初に落ちた場所が見えてしまっているという事実に、基本的には危機感が不足気味のフェリスも不安に駆られてしまった。


(ひょっとして……俺、ピンチ?)


ひょっとしなくとも、大変ピンチな状況である。
間違っても、疑問符を語尾に付けて首を傾げている場合ではない。

このペースでは、生きてここを出るのは絶望的と言って良いだろう。


「だ、大丈夫だ……俺はやれば出来る子だって、昔近所に住んでた婆さんが言ってたし……」


自らに言い聞かせるように上擦った声で呟く。

何だか駄目な香りがプンプンしているが、今のフェリスには自信の拠り所(というか、もはや心の拠り所)がそれしかなかった。
そうでもしないと、不安に押し潰されてしまいそうだったのだ。

しかしそんな状態でも、フェリスの足は止まらなかった。

勇気ある行動、というよりは『とにかく足を動かしていないと怖い』という、訳のわからない心理が働いた結果であるらしいが。



『遭難した時はウロウロと動き回らずに、その場で助けを待つべきである』――そんな、鉄則とも言うべきことを知るよしもないフェリスは、非常にゆっくり、しかし確実に迷宮入りしようとしていた。


その先に、とんでもなく恐ろしい惨劇が、涎を垂らして自分を待ち受けているとも知らずに……




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あきゅろす。
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