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最弱魔族観察日記

10
「まさか…将軍様にそのようなご趣味が……」

分かりやすく動揺しているイグラにサンが「いや、どう考えてもデマカセでしょう」と、冷静なツッコミをする。

「……まあ、それはデマカセでも、ここまで自信満々に言うからには、知り合いではあるのかも知れませんね」

口ではそう言っておいて、心の中では

(この顔なら、将軍様の愛人であってもおかしくはないですし…)

と、フェリスにとっては不本意極まりないことを考える。

「一応レキ将軍様のお屋敷に確認に行ってきます。先輩はここで待っていてもらえますか?」

そう言うとサンはイグラの返答を待たずに瞬間移動を行う。

「お、おい!!私を置いて行くつもりか!?」

フェリスはイグラがどこかのヒロインのように情けない声をあげているのに構わず、ベッドに座る。

スプリングがギシギシッと安っぽい音をたてた。

その状態で、フェリスは部屋の中をウロウロと熊のように彷徨いているイグラに視線を送る。

「どうせすぐに帰ってくるから大人しくしてろよ」

「う、むむ…そうか、そうだな」

低く呻き、ようやく動きを止めた。
しかしその表情は、とても落ち着いたとは言い難いものである。

「んっとに…いきなり人の家来てドタバタと…」

文句を言って、ベッドにゴロンと転がり俯せになった。

あのレキのことだ。
サンから話を聞くなりすっ飛んで来るに違いない。

となれば、わざわざレキに飯をたかりに行く必要はなくなる訳で、自分はここで飯が(レキが、ではないところがフェリスらしい)到着するのを待っていれば良い。


フェリスが再び転がり、仰向けになる。

その時

「戻りましたよ〜」

ヘラヘラと締まりのない顔がフェリスの視界一杯に広がる。

「おおっ!?待ちかねたぞ!!」

「どうもすみませんね〜」

イグラがサンに駆け寄る。
何故か半泣きである。

「……お前、一人か?」

感動の対面(かどうかは疑問が残るが)を果たした二人を見て、身体を起こしていたフェリスが首を傾げた。

てっきりレキが引っ付いて来ると思っていたのだが、狭い家のどこを見渡しても、あの目立つ金色の頭は見当たらない。

「――レキは…付いて来なかったのか…?」

「ああ〜…そのことなんですけどねぇ……」

サンは心底参った様子で目尻を下げた。
その様は、明らかに悪い予感をヒシヒシと感じさせる。

「実はですね、レキ将軍様のお宅に伺ったら…」

「何かあったのか?」

「あったっていうか…いらっしゃらなかったんです」

「――いなかった…?」

はい、とサンは首を上下に大きく振った。

「何でも慰安旅行兼将軍様たちの会議だとかで。将軍様どころか、使用人の方すら一人もいらっしゃいませんでした。困っちゃいましたね」

「はあっ!?」

門に貼ってあった紙にそう書いてありました、と言ってハハハ…と笑うサン。

フェリスにしてみれば、笑い事ではない。

「という訳ですので、貴方の無実証明は無理です。さ、一緒に来てもらいましょうか」

「結局こうなるのだ。全く、時間の無駄だった」

「う、うう…」

サンの手が伸びてくる。

このまま連行されれば、まず間違いなく非人道的な行為が行われてしまう。

フェリスはその手から辛くも逃れ、ベッドを飛び降りる。

いつものように足を捻り、激痛が走ったが、どうにか堪えてサンの横をすり抜ける。

「ああ〜…」

今一真剣さが感じられない声をサンがあげる。

その先には、慌てふためいたイグラの姿が。

しかしいくら動揺していても、反応速度でフェリスに負けるようでは魔族をやめた方が良い。

イグラは直ぐ様、両手を振り回して掴みかかってくる。
意外に早い。

どう考えてもフェリスに勝機はないように思えたが、フェリスとて何の策もなしに逃げた訳ではない。

フェリスは出入口ではなく、家の奥に向かう。

向かった先には、かなり傷の目立つ小さな机が置かれていた。

フェリスはその机に飛び付くと、クルリと身体を反転させる。

「何をしようというのかは知らんが、抵抗しても無駄だぞ」

「ハッ、そんな台詞は――」

射程距離内にイグラたちがいることを確認すると、フェリスは不敵な笑いを浮かべて上から数えて二番目の引き出しを勢い良く引っ張った。

「コイツをくらってから言えよな!!」

ガコンッ!!と引き抜かれた引き出しが、重力に従い床に落下する。

続いてシューシューと空気の漏れるような音がしたかと思うと、部屋の中が一瞬にして白く濁ってしまう。

「なっ、何だ!?ゲホッ、ゲホッ!!何も見えん!!」

「え、煙幕ですよ…先輩、吸っちゃ駄目で…ゴホッ!!」

「アッハッハ!!これぞ、チサト特製『痴漢避けよう君三号』だ!!見たか、俺をナメるとこういうことに……ゲホッ、ゴホッ!!うぐ…い、息が……ッ!!」

得意気だった声が、途中から苦し気な呻き声に変わった。

大口をあげて笑った結果、誰よりも多く煙りを吸い込んでしまったらしい。

これでは自殺と同じである。

(クソッ、まさかこんな欠点があったとは…チサトの寄越す物は欠陥品ばっかりだ!!)

チサトに対する理不尽な怒りをたぎらせつつ、フェリスは煙りを避けて芋虫のように四つん這いで床を這い、ガラスの割れた窓から外へと逃げ出した。



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あきゅろす。
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