最弱魔族観察日記
9
死んでも行くものか、と思うフェリスの考えは、恐らく間違っていない。
「不満そうですねぇ」
「この状況でヘラヘラ笑ってたら、ただの馬鹿だろ」
「まあ、それもそうですけどね。さっきも言いましたけど、僕のお腹は既に限界です。引き摺ってでも来てもらいますよ」
やはり腹か、腹なのか。
ここは、たとえ嘘でも建前上は任務だと言うべき場面だろう。
「はっはっは、いい気味だ!!」
腰に手を当て、それはそれは嬉しそうにふんぞり返るイグラを睨み付け、フェリスは歯をギリギリと噛み合わせる。
ヤツの思う通りになど、何があろうとなってやるものか。
そう考えるフェリスは、既に主旨が完全にズレきっている。
しかし二対一では勝負は見えていた。
……まあ、これがもし一対一でも結果は同じであろうが、その事実にフェリスだけが気付いていない。
(とりあえず、こっちも人数を揃えるか)
それでもって、自分が無実であることを証言してもらえば良い。
(アイツの言葉なら、コイツらも絶対聞くだろうしな)
何せ相手は、最上位の力を持つ天下の将軍様である。
特に、いかにも権力に弱そうなイグラなどは土下座して謝って来てもおかしくはない。
「俺は食い逃げなんかしねぇよ。もし疑うんなら、聞いてみりゃ良い」
「聞くって…誰にですか。っていうか、聞ける相手なんかいるんですか?友だち少なそうなのに」
「どこまで失礼なんだよ、テメェは」
「はっ、今更誰が何を言おうと同じことよ!!」
「……そのセリフ、覚えとけよ」
鼻で笑い飛ばすイグラに、ニヤリと質の悪い笑みを浮かべ言い返しておいて、一度息を吸い込み、フェリスがその名を告げる。
「レキ・シリュウをここに呼べ。俺が呼んでるって言えば、必ず来る」
二人は揃って目を丸くする。
「……何を言ってるんですか?」
少しの沈黙の後、サンが何とか声を絞り出す。
「将軍様を、食い逃げ問題ごときで呼び出せる訳がないでしょ」
フェリスへ向ける視線は、気の毒そうなモノを見る目であった。
まこと、目は口ほどにモノを言うものだ。
「馬鹿なこと言ってないで、行きますよ」
サンがフェリスの細い腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待て!!」
予想と違う反応に焦るフェリスは、とにかく信じてもらおうと必死で言い募る。
「アイツは俺の下僕なんだよ!!昨日だって鞭で股間をしばいてやったら泣いて悦んでた!!」
もしレキがこの場にいれば、泣き叫んでいただろう。
出任せにしても、あまりにも問題がありすぎである。
「な、何だとっ!?」
しかし、ここでやっとイグラが反応する。
ただしその表情は、驚愕というより恐怖に近いモノであったが。
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