最弱魔族観察日記
7 「何…っ!?」 フェリスの答えに、イグラはこれ以上ない程に目を見開く。 「そ、そんな馬鹿な!!信じられん!!」 自分の言葉を力一杯否定されて、元々機嫌が悪かったフェリスが面白い筈がなく。 「って言うか…むしろ俺は、そんな妙ちきりんな名前を真に受けて捜してるお前らの方が信じられねぇし」 せめてもの腹いせに、これだけは人に自慢出来るだろう美しい顔に嘲笑を浮かべてやった。 「僕もまぁ、そう言ってはみたんですが、何せ思い込み激しい人なんで…」 苦労してるんです、とサンが肩を落とし首をすくめる。 「お、お前は何も言わなかっただろう!?」 「心の中では言ってました」 「あのよ…俺じゃねぇってわかったんなら、さっさと出てけよ。俺だって暇じゃねぇんだ」 扉にぶつかって死にかけたり、食い逃げ犯呼ばわりされたりと、普通はあまり起こり得ない突飛な事が立て続けに起こったために忘れていたが、今自分は空腹なのである。 視界がグラグラと揺れ始めていた。 そろそろ立っているのも怪しい。 今直ぐにレキに飯をたかりに行かなくては命に関わると、フェリスは持ち前の野生の勘で悟った。 決して、ここで漫才など聞いている場合ではない。 「そ、そうはいかん。君が嘘をついてるかもしれんからな」 しかし、家まで押し掛けてしまった手前引っ込みがつかないのか、今だ抵抗を続けるイグラ。 「…そんだけ言うんだ。何か根拠はあるんだろうな?」 往生際の悪い相手に、引導を突き付けてやるつもりで問い質す。 どうせ金がなくて食い逃げしそうな者を適当に当たっているだけだろうと思っての言葉だったのだが、イグラはそこで自信たっぷりに頷き 「無論ある。この周辺での聞き込みの結果、我々はある情報を得たのだ」 「ある…情報?」 フェリスが流麗な線を描く眉をひそめた。 おかしい。 自分は食い逃げなどしていないのだから、情報など出てくる筈はないのに。 「うむ……ひょっとしたら、うちの物置に無断で住みついてる顔だけ男が、何かそんな感じの長ったらしい名前だったような気がしないでもないと」 「どんだけ漠然とした情報なんだよ!?いい大人がそんなんに踊らされてんじゃねぇ!!ってか、誰だ!?そんな適当なこと言いやがったのは!!」 一応質問の形をとっているが、実はわざわざ聞くまでもなく、フェリスはその答えを知っていた。 「三丁目のタバコ屋のおタネさん発信の情報だ」 「やっぱりあのババァかよ!!」 フェリスは、いつも顔を見れば「うちの物置から出ていけ」と、入れ歯を飛ばしつつ怒鳴りつけてくる女(タネコさん。自称・永遠の16歳)の顔を思い起こし、頭を抱える。 「あんなババァの戯言、まともに聞いてんじゃねぇよ!!気付いただろ、色々と!?」 「うむ…『久し振りだね、ヨシオ君。好きだった豆大福買っといたから、たくさんお食べ』と黒光りする虫を食べさせられそうになったな」 「全開じゃねぇか!!その時点で情報の信憑性わかんだろっ!?」 「いや、気付いてはいたんですが、何か面倒くさくなっちゃいまして…まあ、もうこれで良いかぁ、みたいな雰囲気になっちゃったんですよね〜」 「テメェが面倒くさがんのは勝手だけどなあ、それに俺を巻き込むんじゃねぇ!!」 フェリスは顔を真っ赤にして彼にしては真っ当なことを叫ぶが、ポリポリと人差し指で頬をかくサンには、悪びれた様子は全くなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |