最弱魔族観察日記
6
食い逃げ。
こんな暢気な二人組を派遣するのだから、罪状はたいしたことはないだろうとは思っていたが、まさか食い逃げとは……
「……否定しないということは、肯定したということだな?」
しかしイグラは、何故かとんでもない『してやったり顔』で的外れなことを言いながら、こちらを見てくる。
「何でそうなる!?誰がするかよ、そんなダッセーこと」
「そうですか?僕は実際にあなたを…というか、この家を目にして、いかにもしそうだな〜と思いましたが」
「言うに事欠いて、何ヌケヌケと失礼なこと言ってやがるんだ!!」
暗に(というか、思いっきり)自分の家を馬鹿にされて、フェリスは激怒した。
確かにサンの言葉は失礼極まりないが、そう思われても仕方がないような生活をしているフェリスにも問題があるだろう。
しかし、本当に身に覚えがないのだ。
――少なくとも『今回』は。
「だいたい、何で俺だと思ったんだよ?」
なのに何故、自分がこうして取り調べを受けているのか。
「ああ…実は食い逃げ犯…いや、犯人は…」
「別にわざわざ言い直さなくても良いけど…犯人は?」
「逃げる直前、自分の名を名乗っているのだ」
「はあっ!?」
フェリスは危うく転びそうになった。
普通、これから食い逃げしようとする者相手に自己紹介などしないだろう。
「…頭おかしいんじゃねぇの、ソイツ」
「だから此処に来たのだ」
「表へ出ろ!!」
「先輩って、本当に説明下手ですね〜」
サンが、いっそ感心したようにしみじみ呟く。
「下手も上手いもあるか!!コイツ、実はただ俺に喧嘩売りたいだけだろ!?」
頭に血が昇りきっているフェリスは、イグラに向かって拳を握り、殴りかかろうとした。
しかしちょうどその時、三日間食べ物が入っていない腹がクゥ〜〜、と間抜けな鳴き声をあげた。
「う…」
流石にこれは恥ずかしかったらしく、振り上げた拳はそのままに、フェリスの顔が怒りとは別の理由で赤くなった。
その姿は、サンが思わず「うわ、可愛い〜」と言ってしまうほどに愛らしいモノであった。
「ねぇ、先輩。やっぱこの人じゃないんじゃないですか?お腹も空いてるみたいだし」
「ええい!!敵の色仕掛けにまんまと嵌まってどうする!!それに、食い逃げしてから何も食ってないなら、話の辻褄は合う!!」
「まあ、それはそうですけどね」
あっさり意見を覆すサンに、フェリスのツッコミが入る。
「お前、もうちょっとしっかり自分の意見ってのを持てよ!!」
「まあ、僕は典型的な指示待ち世代ですんで」
のほほんとした顔で、微妙にずれた答えを返す。
「それより、名前を確認しましょうよ。それが一番早いでしょ?」
しかしこのやり取りに飽きてきたのか、サンがイグラを急かすように言うと、イグラは一度大きく頷き
「それもそうだな…では確認するが、君の名前は『エアリアル・トライアント・アータルー・フロド・シュシュリナーグ三世』で良いか?」
「……良くねぇよ」
他に何が言えたというのだろう。
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