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最弱魔族観察日記

5
どう考えても喧嘩を売っているとしか思えないフェリスの態度に、イグラのこめかみに青筋が浮かぶ。

「では、自己紹介も終わったことだし。本題に入りましょうか。ねぇ、先輩?」

口元をひくつかせるイグラが何事か怒鳴ろうとしたのに先んじて、サンが邪気の感じられない弛んだ笑顔で言う。

サンに指図されたくはないが、その内容はもっともなので反対する訳にもいかない。

「そ、それもそうだな。自己紹介も終わったことだし、本題に入ろう」

せめて会話の主導権をにぎろうと真剣な顔になったが、言っている内容はサンの言ったことと完全にかぶっている。

それに気付いているサンは、何とも微妙な顔でイグラを見ていたが、ここで余計なことを言ってヘソを曲げられては厄介だと、賢明にも口をつむぐ。
しかし

「お前、言ってることかぶってるぞ」

フェリスはそんなサンの配慮を、あっさり台無しにしてしまう。

案の定、イグラの顔色が赤く染まる。

「そんなことはどうでも良いだろう!!」


確かにその通りである。


「ま、まぁまぁ先輩。押さえて。あんまり怒鳴ると、また頭の血管プッツンいっちゃいますよ」

「またとはどういう意味だ!!私は今まで頭の血管が切れたことなどないぞ!!」

「…お前ら、漫才しに来たんなら帰れよ」


フェリスの言い分が正しい。
これが、わざわざ人の家に押し掛けてまでする会話であろうか。


「あはは、それはなかなか魅力的な提案なんですけどね。こっちにも、色々と事情がありまして…」

「…そうだったな。つい君のペースに巻き込まれてしまった。という訳で、君に聞きたいのだが…」

「おい。俺のペースってどういう意味だよ」

「昨日の昼間はどこで何をしていた?一昨日の昼間は?夜は?」


ここにきて、どうやらフェリスの言葉を無視することに決めたようで、イグラはフェリスの質問など全く気に止めることなく、たてつづけに質問をしていく。


「な、何だよ…俺が何してようが、そんなのお前には何の関係も――」

身を乗り出す勢いのイグラに不審そうに言うフェリスだが、突然ハッとしたように目を見開く。

「ま、まさか…お前『も』ストーカーなのかよ!?」

「なっ…!?そ、そんな訳が…」

予想外のフェリスの反応に声をあげるイグラ。
否定しようとするが、そこにすかさず寄越されるサンの声。

「えー…そうだったんですかぁ、先輩。意外だなぁ。でもそういうのって、あんまり良くないと思いますよ?」

口元に手を当て、可哀想なモノを見るような顔をするサン。

「お前までノってどうする!!私はストーカーなどではない!!」

「ストーカーは皆そう言うんだよ!!自分たちは愛し合ってるんだから、当然だってな!!」

常日頃からストーカー被害に合っているフェリスの言葉には、さすがに真実味がある。

「愛し合っているから一緒に住むべきだとか言って拉致監禁したり、愛し合っているんだから『そういうこと』をすんのは当たり前だとか言って変な薬盛ったり、とにかく非常識で異常な行動ばっかしやがるんだ!!そのクセ、人の言うことは全く聞きやがらないし、逆らったら力ずく!!何が愛し合う二人だ!!俺はお前のことが大っ嫌いなんだって、何回言ったらテメェのそのおめでたい頭は理解しやがるんだっ!!」


一体誰のことを思い浮かべているのか、フェリスは怒涛の勢いで言い放ち、握りしめた拳を力一杯突き上げる。

完全にイグラたちのことを忘れきっている。

「だ、だから私はストーカーではないと言っているだろう!!」

「先輩、もうハッキリ言っちゃったらどうですか?このヒト、あんまりヒトの話聞かないタイプみたいですし」

「そ、そうだな。よし。おい、聞いてくれ!!私たちはとある犯罪者を追ってここに来たのだ!!」

「せ、先輩…ちょっと声が大き過ぎですよ…」

サンは耳を塞ぐが、その大音量のお陰で錯乱気味のフェリスの耳にもイグラの言葉が届く。


「……ん?犯罪者?」

しかし、その内容が理解出来たかと言えば、それはまた別の問題で。

「ちょっと待てよ!!俺、そう簡単にバレるような悪事はしてねぇぞ!!」

遠回しに自白しているが、勿論フェリスにその自覚はない。

「――今の発言については後から聞かせてもらうとして……先にこの質問に答えてもらおう。君は…『食い逃げ』をしなかったか?」

「……ハァ?」


フェリスの目が点になった。



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