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最弱魔族観察日記

4
「どういうことか、説明しろよな」

必死の治癒術のお陰で奇跡の生還を果たしたフェリスは、腕を組んで相手を見下ろす。

嫌味がたっぷりと込められたその言葉に、しかしいきなりやって来て、そこの家主を殺しかけるという暴挙を犯してしまった二人は表立って反抗出来なかった。

冷たく固い床に直接正座させられ、一方はダラダラと脂汗を流し、もう一方は表情は変わらないが、チラチラと横目で先輩である男の様子を窺っている。

「黙ってないで、何とか言ったらどうなんだよ!?」

沈黙を保つ二人に苛立ち、片足をダンダンッと床に叩きつける。

金瞳を怒りにギラギラと輝かせ。
盛大に顔をしかめて怒鳴ってくるフェリスに、訳のわからぬ迫力を感じて、少しだけビビってしまう。

……相変わらず魔力は全く感じられなかったが。

「――し、失礼をした。実は私たちは君に「ちょっと待てよ」

説明しろと言ったクセに言葉を遮る。

その態度に僅かにムッとしたが「説明する前に、まず名前を名乗れよ。それが常識ってもんだろ」と言われる。

フェリスのことをある程度知る者であれば「フェリスに常識を説かれるなんて…ッ!!」と、とにかく死にたい気分になるだろうが、フェリスの普段の言動を知る筈もない男(先輩)は、フェリスの言い分に納得し、直ぐ様答えた。


「確かにそうだな。失礼した。私はイグラ。こっちでヘラヘラ笑っているのはサン。この近辺の治安維持を任されている者だ」

「治安維持?そりゃまた、ご苦労なことだな」

いかにも嫌そうに表情を歪めるフェリス。

「で?そのチクり野郎どもが揃って、この俺に何の用があるってんだ」


魔族というのは、ほとんどの者が自分勝手な質なので、魔界には軍隊や警察といったきっちりとした規律のある組織は存在しない。
よって、犯罪などが起こった時には大概、当事者たちだけで解決しなければならない。

しかし、きちんとした痕跡や証拠がなかったり、加害者が被害者よりも強大な魔力の持ち主であったりした場合など、解決が困難な場合もある。

そんな時に頼りになるのが、近隣の治安維持を担当する者だ。

ここでいう治安維持とは、つまり『自分たちだけで何とか出来ない困ったことが起こった時には、ご近所の皆で集まって相談しましょう』ということであり、彼らはその辺りでは一番の魔力と権力を持つ魔族――例えば将軍たちなど――に問題について相談をしに行く、近所の代表のような者なのである。


これは一応正当に認められた行為であるのだが、フェリスは密かに(でもないが)彼らを『チクり野郎』と呼んでいた。

手に終えないことが起こると、直ぐに強者に泣き付くその行動が、フェリスには何となく好きになれないからだ。




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あきゅろす。
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