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最弱魔族観察日記

3
フェリスの目に、自らに迫る扉がまるでスローモーションのように見えた。

「あ……」

だが、見えたからといって避けられるだけの身体能力がフェリスにあるかと言うと――

「うぐぉっ!!」

まあ、ある筈がない。

ゴィィーン…――鈍い音が響く。


フェリスはその可憐な容姿を裏切りまくった、何とも間の抜けた声をあげて吹き飛んだ。

フェリスの身体はゴロゴロとコマのように回転しながら床を転がって行き、やがて机の脚にガツンと当たって止まった。

「す、すまないッ、大丈夫か!?」

原因である青年は、うつ伏せに倒れたままピクピクと痙攣するフェリスの姿に心底驚き、大慌てで駆け寄る。

「あれ〜、当たっちゃいました〜?」

その後からやや目の細い、先の青年より少し若く見える青年が頭を覗かせた。

「当たりも当たり、大当たりだ!!ヤバいぞ…って、何だこの魔力!!…何でこれで生きてられるんだ!?」

まさかもう手遅れなんじゃ――青ざめる青年に、細目の青年が気楽に笑う。

「大丈夫ですって。ちょっとした事故ですよ〜」

「事故にちょっとしたも大したもあるかい!!お前、これは始末書じゃすまねぇぞ。どうするつもりだ!?」

青年は叫び返しながらも、フェリスの生命をこの世に繋ぎ止めようと、必死で回復魔術を使う。

しかし、言われた相手に緊迫感は全く見て取れない。

「マジですか〜?先輩も大変ですね〜。まあ、頑張って下さい。たまには牢に差し入れを持って行きますよ。冷凍ミカンで良いですか?」

「何でそうなる!?牢の中でブラリ旅気分かよ!!」

「あれ、嫌いでした?冷凍ミカン」

「違う!!ミカンは好きだ!!そうじゃなくて、何で私が捕まるんだ。扉を開けたのはお前だろう!!」

「それは先輩が開けろって言ったからでしょ〜」




「――お前ら…二人とも…殺、す…ッ!!」



完全に被害者のことを忘れ去り醜い口論を続ける二人の耳に、血の滲んだような悲痛な慟哭が届いたのは、約一時間後のことであった。



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