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最弱魔族観察日記

2
今日も今日とて、自分の腹の虫が鳴く音を目覚ましに起きたフェリス。

金がないのも空腹なのもいつものことだったが、自らの身体がいい加減、限界であることを悟った。

このまま寝転んでいては、明日の今頃にはほぼ間違いなくベッドに餓死した死体が転がっているだろう。

こうなればフェリスに残された手段は二つ。
『ゆすり』か『たかり』しかない。

しかし、フェリスにゆすられる者がいる筈もないので、結局『たかり』しか残らない。

そして『たかる』となれば、相手は決まっている。

「……クソッ。やっぱレキの所に行くしかねぇか…?」

ボソリと呟き、のそのそと実に緩慢な動きでベッドから起き出した。

その姿からは全く生気が感じられない。
気のせいか、何だか影まで薄い。

いつものフェリスであれば、このような命の瀬戸際になる前に、その選択肢を選んでいる筈だった。

しかし以前、これとほとんど同じシチュエーションで、あのおぞましい変態に、口にするのも憚られるような酷い目に合わされてしまっている(※ある魔族のとても貧乏な日参照)

そのことを考えると、安易にそれを選ぶことはどうしても出来なかったのだ。


命あるモノはすべからく進化する。

とうとうフェリスも『その時』を迎えたらしい。

その切っ掛けが魔王であるというのは、フェリス本人にとっては甚だ不本意であろうが。


だが勿論、学習能力を身に付けたからといって腹が膨れる訳ではないので――結局その進化(?)は、フェリスの空腹の時間を引き延ばしただけである。


このまま干物にはなりたくない。
でもあのストーカーにも絶対に会いたくない。



相反する二つの思いのせめぎ合いの結果、勝ったのはやはり『生き残りたい』という本能だった。


「スゲー嫌だけど…命には代えられねぇよな……そ、それに…レキの所に行ったからって、絶対にあの変態王が来るとは限らねぇし!!」


甘い。
シロップのかかった砂糖菓子のように甘過ぎる考えである。


自らに悠久の時間があるせいか、くだんの王は――フェリスにとっては幸いなことに――そう頻繁に、フェリスにちょっかいをかけに来る訳ではない。

しかし、虐める材料を黙って見逃すような可愛げのある性格でもない。


どうやら『お仕置き』というシチュエーションが好きらしいからだ。



普通、弱い生き物ほど警戒心は強いものである。

そうでなければ、弱肉強食の世を生き抜けないからなのだが――フェリスが、何故今だに五体満足で生き残っていられるのかは疑問だ。


そして、その自然界の法則を無視した存在は、外に向かって歩き出す。

最早まともに歩く体力が尽きているので、その足取りはフラフラと幽鬼じみたものだ。

それでも何とか扉まで辿り着き、錆びたドアノブに手を伸ばす――その直後


「失礼するッ!!」


大音量と共に、扉が勢い良く開かれた。



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