「女神の受難!?」
逃亡 照り付ける太陽、突き抜けるような青い空、そして果てしなく広がる砂の海。 陽の光に砂が金色に輝きながら流れていく様子は見とれるくらいに美しく、ここが死の世界であることを忘れてしまいそうだ。 その灼熱の砂漠を進む人影があった。 頭からフードを被り直射日光を防いでいるが、砂漠になれていない者にとっては被っていてもいなくても大差ないように思える。 「……まさか、こんなに暑いとは思わなかった」 人影――セツナは額から流れる汗を拭い、呟いた。 他の神族を何とか撒き、とにかく遠くへ――その思いからここを選んだが、安易に考えすぎだったのかもしれない。 (姉貴に知られたら、また馬鹿にされちまうだろうな…) チラリと浮かんだ考えを頭を振ることで打ち消し、また歩き出す。 とにかく陽が昇っている間に休むことの出来る場所に辿り着かねば、急激に下がった温度に体力を奪われてしまう。 神族なので最悪の場合でも凍死することはない筈だが、試してみるほどセツナは悪趣味ではない。 それに、食料や飲み水の問題もある。 どんなに切り詰めても後1日しかもたないだろう。 やはり神族である自分がその程度で衰弱するようなことはないだろうが、避けれるモノなら避けたい事態である。 『王選の女神』を護衛するため共に人界に来た神族たちに怪しまれないために、必要最低限の準備しか出来なかったのだ。 勿論、セツナとて神族の端くれである。 いざとなれば神力を使ってどうにでもなる筈なのだが、残念なことにセツナは神力のコントロールがこれ以上ないくらい下手だった。 どれくらい下手かというと、スープを温めようとしてボカーンとかドカーンといった大技の攻撃になってしまうくらいである。 よって怪我の治療などならまだしも、自分の周りに結界を張って暑さや寒さを凌ぐといった繊細な作業はトコトン苦手なのだ。 ちなみに空を飛ぶのも繊細な部類に入るので、セツナは普通の人間のように砂漠を徒歩で移動するしかなかったのだ。 『若、本当によろしかったのですか?』 ふいに頭の中に響いた声に、しかしセツナは驚きに歩みを止めることもなく言葉を返す。 「いいんだ…オレがいなくなれば正式な『王選の女神』が選出される筈だ。誰に取ってもその方がいいに決まってる」 『しかし…それでは若が…』 言い淀む声は、若いようにも年老いているようにも聞こえた。 「最高神の勅命に背いた罪で、神界を追放されるって?それこそ望む所だ…どうせもう…戻るつもり、ないから」 固い声は、強がりに聞こえたことだろう。 それでもあの不思議な声の主は、セツナに気遣ってか何も言わなかった。 腰に差した剣が、チャリッと微かな音をたてた。 それからのセツナは、何も言わず歩き続けた。 急激に下がっていく温度。 満点の星空の向こうに、うっすらと灯りが見えた。 そして……下界では4年の月日が流れた――― 第1章 完 よろしければ感想を下のコメント欄かBBSにお願いします。 今後のストーリーの参考にさせて頂きます(貴方のコメントでストーリーが変わるかも…) [*前へ] [戻る] |