「女神の受難!?」
呼び名2
「……とりあえず、よろしく」
本当は『この仕事が終わるまでは』と付け加えたかったが、さすがに大人げない気がして、結局何も言わずにリンの手を握る。
厚い革の手袋は温もり一つ伝えては来ないが、それでもリンの手が自分よりも小さいことがわかる。
(あんまり傭兵らしくない手だな…手のひらが柔らかいし、パッと見た感じマメやタコの潰れた跡もない…)
ひょっとして彼は傭兵になってそんなに経っていないのではないか、そう思わせる手だった。
というか、そのことを考慮しても、リンの手はちょっと綺麗過ぎる気がする。
人間の生活についてはあまり良くは知らないが、普通一般的な庶民の手は、もっと荒れているものではないのだろうか。
血筋は名門でも育ちは庶民なセツナには、その辺りのことがある程度見分けがつく。
リンの手は、全く労働を知らない者の手のようだ。
(でもコイツは精霊術師らしいから…手を使うことがないだけかも知れないな…)
そう思いながら、リンの手を放す(リンは自分からは放そうとしなかったので)
「オレはな、レイナークや。セツやん、レイって呼んでな」
「あ、ああ……って、セツやん!?」
割り込んで来たレイが差し出す手を掴んだセツナは、言われた言葉に驚愕の声をあげる。
「ん?何やあかんのか、セツやん」
「いや、その…」
「当たり前だよ!!ホントレイって馬鹿じゃないの!?」
何と言えば良いのかわからず、言葉を濁すセツナに代わり、リンが凄い剣幕で抗議した。
「何なワケ、そのダッサイ名前!!冗談は顔だけにしなよね!!」
「何でお前が怒んねん。リンには関係ないやろ」
「関係あるよ!!だって僕とセツ君は…ッ、その…仲間だもん!!」
「それ言うんなら、オレかてそうやで。仲間の仲間は仲間やろ」
「うるさい!!レイなんか僕の仲間じゃないよ。勿論セツ君のでもないからね!!」
「そんな殺生な〜」
口を挟む隙を見つけられないセツナを、完全に無視して繰り広げられる舌戦。
仕方がないので、呼び名の件は後で話をしようと考え(とりあえず『セツやん』は勘弁して欲しい)部屋の隙から窓に一番近いベッドに移動し、腰を下ろした。
きちんとベッドがあるのに寝る時まで隅にいては、いくら何でも怪しまれる。
本当に寝ることが出来るかは別にして、とりあえず横になる必要があるだろう。
(何でこんな余計なことばっかり…)
こんな小細工をしなくてはならない自らの運の悪さに、セツナは深い溜め息をついたのだった。
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