君の胸をくるしめる病原体にわたしはなりたい あ、最後以外ははシンタロー視点です。 *** あいつは、自殺した。 「自殺した」より「自殺していた」の方が、今の状況としては正しいだろう。 俺は、そんな下らない事を考えていた。 風がちりちりと、髪の毛を揺らす。 嵐のような静けさが、俺を包んでいた。 …実際には、静かな訳がない。 周りでは沢山の野次馬どもが群れを成して騒いでいたし、ケーサツ達はガシャカジャとブルーシートを被せていた。 そっと周りに目をやる。 吐き出す男子生徒や、女生徒。物見遊山で集まってきた、近所のババアやジジイ。何やら忙しそうな先生。 これらを見て、俺はまず思った。 「お前らが、死ねばいいのに…」 あいつは吐いたりしない。 両手を合わせて、祈るはずだ。 ―――――― 「――ん」 天井が目に入る。 気が付くと、俺は制服のまま、自室のベッドに横たわっていた。 俺は倒れてしまったのだろうか? 倒れた俺を誰か、その場に居た人が運んでくれたのだろう。ありがたいな… 低血圧なため起き上がるのも面倒臭く、そのまま寝ていることにした。 時計を見ると、今は6時すぎだった。俺の家は学校と比較的近いため、この時間に俺が家に居ることは珍しくない。 ちなみに、今日の事もあり、明日は休校ということだ。 「…このまま、ずっと眠れたらな」 飯も風呂も勉強も運動も何もせず、ずっと。 これが、俗に言う「死にたい」という感情なのだろうか。 確かに随分失礼な言い方だが、例え植物状態になったとしても、食事は必要だ。 だが、俺にそんな勇気は無いだろう? 自分で生きる道さえも決められない、最低最悪超自己中心的意気地無しの俺に。 [俺は世の中で一番役に立たない存在である]これはどうやっても抗えない、真実だ。 …あいつも同じ事を考えたのではないだろうか? もしその場合、あいつと俺の決定的な違いを「決断したかしていないか」としてもよいだろう。 「俺も、「決断」するべきか…?」 そのための手段なんて、この世界にごまんとある。 舌を噛み切ったり、あいつが行ったような飛び降りや、薬、首吊り、放火、海や川で…など、数えきれない。 例えば、コピー機のインクとして使われている、シアンがある。 これは直接的な毒である。飲めば数時間程度で…だろう。(大量に飲んだ場合は体に届くまでに吐き出してしまうため、意味が無い) ここまで考えて、俺は気付いた。 さっきから小刻みに体が震えている。 「…俺、」 シニタクナイノカ? サッキイッテイタジャナイカ。「勇気がない」ダケダト。 「、俺は…」 オマエガ、シネバイイ。 アノヤジウマドモハ、オマエナンカヨリズット「偉い」ニンゲンタチダ。 オマエナンカ、ヨウナシナンダゼ? 「……、」 オマエ、サッキモイッテタゾ? ホラハヤク「舌を噛み切」レヨ。 アヤ、 「お前は、誰だ」 …ナニヲイッテ、 「お前は、俺じゃない」 言いきると、声は止んだ。 黒い影は霞み、次第に消えていった。 「…自殺なんか、しねえよ…ッ!!」 頬を、冷たい水が伝う。 声は冬の空気に消え、眩んだ。 ―――――― 「ちょーっと、残念かなあ?」 ローファーを履き直し、少女は座っていた椅子を降りた。 赤い月が、少女を見下ろす。 「まあ収穫アリだね。結構悲しいけど…」 赤いマフラーが風になびき、少女は前髪をたくしあげた。 赤い目をして、少女は呟いた。 「…死んじゃえば、よかったのに」 彼女は今でも、シンタローを愛している。 front |