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夜空エンベレスメント
シンエネ!
もちろんほのぼのです。2年前のお話。

***



「エネ、おやすみ。」
「お休みなさい、ご主人。」

軽く言葉を交わした。エネはスリープモードへの準備を始める。

目が冴えるな…

現在AM1:30。
定刻である。さすがにもうそろそろ自律神経が、俺を眠りへ導いてゆくはずだ。

ニート生活を始めて一年半。
母親にはとても迷惑をかけている。
この恵まれた環境も、彼女が生み出したものなのであろう。

如月シンタロー!
高校中退!
ヒキニート!
童貞!

もう俺のスロットは生半可な決意ではどうにもならない程に埋まっている。
しかし俺はもう生半可な決意しかできないだろう。

なぜ高校中退したんだっけ…

頭に沢山の言葉が浮かんでくる。
しかし、「それを繋ぎ合わせてはいけない」と俺の心が叫んでいた。

考えてはいけない。
答えが出てしまうから。

思い出してはいけない。
後悔してしまうから。
「後悔」に殺されてしまうから。

わからない。

何を言ってるんだ。
絶対にわかってる。
ただ、呑み込みたくないだけだろ?

俺の心が囁きかける。
これが二重人格というものだろうか。


1日を追う事に増してくる倦怠感。
とめどない無力感。
そして、ゆっくりと近付いてくる「絶望」。

もう、嫌だ。

マフラーを巻いた少女の姿が、脳裏をかすめる。

ほんの少し、嗚咽が漏れた。

「……」

…エネ?起きているのか…?
ヤバい、失態だ。
今のを聞かれていたら、死ぬまでいたぶられ続けるに決まっている。拡散でもされたらどうしようもない。

「おい、エ…」

「…ひっく…」

エネ?

まさか、エネが泣いているのだろうか。
パソコンに背を向けたまま、なるべく簡単に聞く。

「…どうした?」
「何ですか…ひっ…く…」

必死に嗚咽を抑えている。

「…何かあったのか?」

エネは黙った。当たり前か。

「…ご主人とは関係ありません、ご心配なく」「そうか」

いつものエネではない。
思い付いて、ベッドを降りた。

「…!?ご主人?」

よほど泣き顔を見られたくなかったのだろう。とても動揺している。

閉まっているカーテンを開いた。

窓の方をむいて、ベッドの上にあぐらをかいて座る。

「…?何ですか?」

三日月がきらきらと光っている。

「上のやつがオリオン座。」

「え?」

「主星はベテルギウス。赤くて綺麗だろ?」

「?」

「オリオン座は砂時計みたいな形で…ほら。真ん中の三つ星はこの星座が日入りする時、垂直になるんだ」

「………」

「ちなみにベテルギウスは冬の大三角に含まれていて、他にこぐま座のプロキオンなんかもあるんだ」

「……へぇ…」

「月が綺麗だな…」
「…そうですね」
「俺、星座好きなんだ」

調べようとまでは思わないが、話せるぐらいには知っている。

「…なんか夜空って、本当に美しいって感じしますね」
「だよな。」

ふとエネの方を向いてみた。
こいつにとっては初めて見る空かも知れない。

「…ご主人もこーんな風に綺麗なお顔になれたらいーんですけどね〜!?」
「お、お前っ…!」

エネはふふんと鼻を鳴らし、再びスリープモードへの準備を始めた。

「さあ寝ますよ!ご主人!!」
「…おうっ!」

電気を消して、ベッドに潜り込む。

「ご主人…さっき泣いてませんでした?」
「!!!!!」

エネは不敵な笑みを浮かべ、こっちを見ていた。

「…っ…」

エネは「仕方ないんだから」というような顔をする。

「…いいですよ。別に」

パソコンの電源を切るのだろう。
エネの身体が淡く光っていく。

「心配してくれて、ありがとうございます。」「……」
「…明日はロシア軍のアラートですよ〜!!」
「おまっ…明日も!!?」

パソコンがシャットダウンされた。

溜め息を吐き、毛布を掛ける。

「ありがとうな……エネ」

呟いてみた。





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