32
その黒髪の生徒は、昴から大袈裟に顔を逸らすと椅子に座ってその様子を眺めていた響の腕を掴む。
勢いよく引っ張られた響は、困ったように立ち上がった。
「響、さっきぶり」
「……圭さん」
その様子に、何だか響が困ってるように見えた俺はすかさず黒髪の生徒から響を引き離した。
ついでに腰を抱けば「ど、どこ触ってるんですか……!」と顔を赤くさせた響に睨まれる。
「うわっ、お前美形だな!」
そして黒髪の生徒は俺の行為に気を悪くした様子もなく、俺の顔を覗き込むと目を輝かせている。
美形と言われて悪い気はしないものの、お前と呼ばれた事には少し驚いた。
まあ俺が響を無理矢理引き離しても怒らない寛大な人みたいだから、俺も寛大にならないとだよね。
そう思った俺が「有難う」と笑みを浮かべると、その生徒は顔を赤くさせた。
「俺、本庄未琴(ホンジョウミコト)って言うんだ!お前の名前は――」
「圭くん!食堂に来るなんてどうしたのー?もしかしてオレに会いに来たとかぁ?」
黒髪の生徒、本庄君の言葉を遮るようにして唯はギュッと俺に抱き着く。
同時に周りから黄色い声があがった。
抱き着いてきた唯を受け止める為に響から手を離した俺は、唯の背中と後頭部に手をそえる。
俺の後ろにいた爽太の「大丈夫だった?」という問いに「なんとか」と言う響は、やっぱり本庄君とは仲が良いわけではないらしい。
「昴に呼ばれたんだよ」
「かいちょーに?」
嘘をつく必要も無いだろうと素直に答えれば、物凄い眼光で昴が俺を睨み付けてた。怖い。
首を傾げる唯に「そうだよ」と苦笑いで頷けば、今度は舌打ちをされる。
事実なんだからそんなに怒らなくてもいいのに、相変わらずよくわからないんだから。
昴の「にらみつけるこうげき」から目をそらせば、亮と目が合った。
微笑めば亮は頬を赤らめる。
「それにしても、亮が食堂来るのも珍しいよね?」
「……会長が、転入生に会いたいって……」
「転入生?」
「……ん、転入生」
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