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第17話 2
 学校の手前で分かれて、形兆は先に上履きに履き替えて教室へと行く。
 いつも通りに教室の扉を開けると、談笑していたクラスメイトがぎらりと形兆を見据えた。
 ――これは……見られてたか?
 背筋に嫌な汗が伝うのがわかった。果てしなく面倒くさい。どうしてこう、このクラスの人間は他人の色恋沙汰が好きなのか。
 そう思うとクラスメイトのひとりがつかつかと形兆の前まで来た。形兆と香澄のなかを勘ぐる筆頭の女子で、億泰に睨まれていた香澄の友人だ。
 視線が合う。そらすのも負けたような気がするので、形兆はじっと女子を見据えた。

「んだよ。言っとくが砂原とは――」
「虹村おはよう。しばらく学校休んでたけど、平気?」
「お……おう」
「香澄がどーかした?」
「いや……別に」

 思っても見なかった心配の言葉に、返す言葉がぎこちなくなる。
 学校をサボったり無断欠席することは一度や二度ではないが、こういうふうなクラスメイトからの心配ははじめてだ。
 クラスメイトの言葉など、すべて無視して跳ね除けていた。好んで他人を避けていたため、そもそも話しかけられることなどないのだ。

 拍子抜けしたのは他の人間もそうだったらしい。形兆のもとに群がろうと一斉に立ち上がったのが、単なる挨拶だと知るとはーあと溜息までついて椅子に座りなおす。
 そんな周囲に女子は、なによ、と睨み返すように眉根を寄せた。

「ま、元気ならいいんだけどさ。最近物騒じゃない……行方不明者とか事件とか、すごい多いからさ」

 行方不明者の大半は形兆の弓と矢によるものだが。

「他人の心配する前に自分の心配したらどうだよ」
「……人がせっかく心配してやってんのに。そりゃ別れるわけだわ〜」
「あぁ?」

 女子の言葉に、形兆は眉をしかめた。
 登校中一緒だったことは見られていないようだが、面倒なことには変わりない。

「おはよう……お久しぶり〜」

 タイミング悪く、香澄が形兆の影からひょこっと顔をだした。
 扉の前で話していたことに気付き、形兆と女子は身体をずらして扉の前から退く。
 香澄は形兆にぺこんと会釈をした。控えめな視線を受けつつも、形兆は無視をする。

「香澄! あんた一週間も学校無断欠席してどーしたのよ」
「あはは……ちょーっと熱出しちゃって」
「あんたね〜……心配するからちゃんと連絡はしっかりしなさいよぉ。最近物騒なの知ってるでしょ?」
「そうらしいね。気をつけるよ」
「ああそうか……あれ? そういえば、虹村も無断欠席よね」
「俺は毎度のことだろ」
「一週間? ふたりとも?」
「……なにが言いてぇんだ」
「あんたたち、仲直りしたの?」
「はあ?」

 嬉しそうに目を輝かせる女子に、すっとんきょうな声がもれた。がたり、とクラスメイトたちが椅子から立ち上がる。

「ついこの間まですっごく気まずそうだったのに、今朝はそれがないもの」
「別に……気のせいだろ」

 形兆は香澄とは反対側へ顔をそらした。それが意味深にとられてしまったのか、追随するようにクラスメイトたちがどやどやと形兆と香澄に群がってくる。

「一緒にいるだけでまわりの空気が凍えるよーな感じだったのよ? それがなんで今日に限って会釈とかする仲になってるの? 休む前は朝の挨拶もしてたわよね?」
「一週間! 一週間も二人で無断欠席……? ナニしてたんだよ、虹村、お前っ」
「……お前ら、砂原のこのふらふら加減見ろよ……んな仮病使って休んでたように見えっか?」
「香澄が仮病使ってるようには見えないけど、香澄が病気中に看病と称して虹村がヘンナことしてたってんなら信じられるな」
「会ってねーしへんなこともしてねーよっ!」

 あまり否定できない事実なのがやるせない。形兆は噛み付くように食って掛かった。

 その後、教師が来たためクラスメイトからの詰問はいったんは終わりを告げた。
 昼休みになり、形兆は自分の机、香澄はクラスの女子たちと食事をする。本来であればなんの問題もなくそれぞれの昼休みが終わるはずだったが――。

「香澄ー、間違えて香澄の弁当箱持ってきちまった」

 遊びに来た億泰の爆弾発言によって、クラスは騒然となる。億泰が慌ててなにか弁解しようとするのを、形兆は眼光で黙らせる。これ以上おかしなことを言われてはたまらない。
 形兆は眉間に手をやった。頭痛がしそうだ。


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