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回答拒否
回答拒否第一話 2

「ねえ、もしかしてスタンド使い? って、わたしや虹村くんたち以外にもいるの?」

 スタスタと道を歩いていく形兆を小走りで追いかけながら、香澄が形兆と億泰に声をかけた。 

「ああ……まぁな。といっても数は少ないだろうが――ただスタンド使いとしての才能が眠っている人間は多いはずだ」
「才能? 生まれたときからわたしのそばには『あの子』がいたの。後天的にスタンドがみえるようになったり使えるようになったり……なるものなの?」

 察しがいい人間は嫌いではない。
 前を向いたまま形兆は頷いた。

「俺たちは後天的なスタンド使いだ。先天的なスタンド使いということは、スタンドを操る術にも長けているはずだな。詳しくはあとで見せてもらうが、お前は――」
「なあ、兄貴」
「億泰〜ッ。人がしゃべってる時に遮んじゃねぇといつもいつも」
「砂原って女、話聞いてねぇぜ」
「なっ」

 歩みを止めて振り返る。先程まで形兆に追いかけながら話を聞いていた香澄は影も形もなくなっていた。
 香澄は道路の反対側で、泣いている子供をあやしている。

「どうしたの? 迷子?」
「おかあさんが〜ッ」
「そう、迷子なんだね、寂しいね。大丈夫だよ、お母さん見つかるよ」
「おい、砂原……そんなガキに関わってる場合じゃあ」
「ごめんね、虹村くんに弟くん。ちょっと待ってね」

 香澄は形兆と億泰にすまなそうに笑って、子供に向き直る。不機嫌になりながらも形兆が様子を見守ることにしたのは、香澄の傍らにスタンドが発現しているからだった。
 輪に手足が生えたような外見のスタンドだ。大きさは手のひら大で、輪には蜘蛛の巣のような糸が張られている。

「ちっちゃくて弱そうだな」
「パワータイプではなさそうだ」

 腕組みをし、形兆はスタンドと香澄の観察をはじめる。

「『ピンクスパイダー』、協力お願いね」

 言葉を肯定するように輪の糸がピィンと震えた。
 香澄はすうっと息を吸って、言葉を発する。

「ぼく、落ち着いて」

 香澄の言葉を受けてピンクスパイダーの糸が鳴動する。共鳴するようなかすかな音がおさまるころには、子供の目から涙は消えていた。
 泣き止んだ少年はきょとんした顔で香澄を見つめる。

「お母さんを探すの手伝うよ。大きな声で空に向かってお母さんを呼んでみてくれる?」
「うん……おかあさーん!」

 ピンクスパイダーが激しく震えた。少年の叫びに呼応するように糸の振動が増幅する。
 ハープのような高い音が周囲に響き、少年の叫びがこだまするように染み渡っていく。

「ガキの声を増幅させているのか?」

 目をこらす形兆を知ってか知らずか、香澄はピンクスパイダーの鳴動が終わると、うんと頷いて立ち上がった。

「じゃあ、しばらくお姉さんとアイスでも食べながら待ってようか」
「エッ、探してくれるんじゃないの?」
「しばらくすれば来るよ」

 香澄の言葉は的中した。少年がアイスを選んでいる間に、少年の両親がやってきたのだ。

「たかしの声が聞こえた気がしたら、本当にいるなんて……あぁ、よかったわ、本当に!」
「ママ!」

 母親は心底安堵して、少年を抱きしめる。

 礼を言うと手を繋いで歩いていく。親子の背中を香澄は微笑みながら見つめていた。
 姿が見えなくなるまでずっとそうしている香澄に、焦れた形兆が声をかける。

「あ、ごめんね。ところで二人はチョコミントとストロベリーどっちが好き?」
「まぁ……ミントだな」
「俺はストロベリーだな〜」
「はい、どうぞ」

 アイスを口許にも差し出され、形兆は戸惑った。
 とっさに受け取ってしまったが、アイスを食べたい気分ではないし甘いものもさほど好きではない。

「おい砂原、これはなんだ」
「なにって、チョコミントだよ。チョコミントアイス、食べたことない? 美味しいよ」
「頼んでない」
「わたしが頼んだからね。おごるから気にせずどうぞ」
「そうじゃない。俺も億泰も、他人におごられるなんて――」
「ンマァーイッ!!」

 横から聞こえた弟の感嘆の声に、形兆は頭を抱えた。

「口のなかにいれた途端ふわりと溶けていく雪のような口どけ! そのなかに残るイチゴの果肉の甘酸ッぱさ! なんつうか絶品だぜこれは」
「喜んでくれたなら嬉しいな。……虹村くん、溶けちゃうよ? ミントのアイスは嫌いだった?」

 不安そうに見つめられ、息がつまる。
 まあ――この程度の好意には甘えてもいいだろう。ため息をついて手のなかのミントをぺろりとなめた。
 確かに美味い。



 アイスを食べたあと、形兆は億泰と香澄をつれ、カラオケ屋へと足を運んでいた。
 防音の密室は秘密話の場所としてもってこいだ。それに香澄の能力は音に関連しているらしい。

 テーブルを挟み、形兆と億泰は香澄と向かい合って座る。

「兄貴ィ、なんか歌うんすか? スタンドの話なら家でもよかったよーな」
「部外者をあの家にあげるわけにはいかねぇだろ。ちったぁ考えてモノ言えよ億泰〜ッ、だからお前はアホの足手纏いなんだよ」
「そこまで言わなくたっていいじゃねぇかよ」

 家には変貌した父がいる。
 香澄のスタンド次第では対面させることを辞さないとはいえ、よく知らない相手に見せられる存在ではない。あの怪物は形兆の恥であり汚点であり足手まといだ。そして目の前の間抜け面の弟も。
 ぼりぼりと頭を掻く億泰と憮然とした形兆を見比べて、香澄はクスクス笑った。

「あに笑ってんだよォ、香澄先輩よぉ〜」
「ごめんね、仲のいい兄弟なんだなって思ったら羨ましくって……」
「どこをどう見たらそう見えるんだ」
「なんだかんだで大好き、ってふうに聞こえたよ。もうしょーがねーな、億泰……そんなとこがほっとけないぜ! みたいな?」

 密やかに笑う香澄はいたずらっぽくそう言った。
 認めたくはないが、香澄の指摘は的を射ていた。射ていたから、形兆は眉をしかめた。

「いいよね、同じものを共有できる兄弟……二人ともスタンド使いなら、寂しくないよね」
「そう、スタンドの話をするためにここに来たんだ」

 どうにも砂原といるとペースを持って行かれてしまう。気を引き締める。

「お前のスタンドは具体的にどういう能力だ?」

 形兆は香澄の能力が肉親を殺害するに至るものであることを祈りながら――本題を尋ねた。


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