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未知なる世界



「一つ、確認しておくが……君は、アレが分かるね?」
「……あ、アレって……?」


唐突に言われた言葉に内心焦る。そんな俺に呆れたように息を吐いて、彼女はさらに言葉を紡いだ。


「この期に及んで、君と不要な問答をする気はないよ。そもそも、君がアレから逃げて此処までやって来た時点で、答えを言っているようなものだしね」


……そう思うなら、わざわざ俺に聞くな。

いくら目の当たりにしたって、俺はアレの存在を認めたいわけじゃない。だからできるなら、言葉になんてしたくない。
大体、逃げてたことまで知ってるなら――……。
……あれ?

……‘逃げてたことまで知ってる’……?


「……何で、俺が逃げてたことを知ってんだ?」


そうだ、よくよく考えたらおかしいじゃねぇか。
仮に、さっき聞こえた破裂音が、彼女が発砲した音だったとして……あの場面だけじゃ、単に俺が襲われてることしか分からないはずだ。
なのに、何で‘逃げてた’ことが分かるんだ?

俺は無意識に彼女は味方だと思ったが、それはあの真っ黒な生き物よりも俺に近かったから……つまり、彼女が人間の姿だったから信じただけだ。
……本当に彼女が味方だという証拠は――ない。


「答えは明解だよ。……君を張っていたから、さ。私は君が狙われるだろうことを知っていた。ただ、それだけのことに過ぎない」
「だから!何で俺が狙われるって分かるんだよ!つうか、張ってた!?」
「……騒がしい男だね、君は。詳細を知らない君に、一から教えている暇はないんだ。君にアレの存在を認識できる……それさえ確認できれば、後は些細なことさ。もちろん、君が私を疑うのは自由だ。ただ忠告はしておこう、先ずはアレに集中したまえ、と」


チャキ、と音を鳴らして銃を構える彼女を睨んでも、全く効果はない。
結局、何の情報も得られない。何も分からないまま、こんな目に遭うことに納得がいかない。……いや、詳しく説明されても納得はしないだろうけど。
本当に、理不尽だ。

何て文句を言ってやろうかと考えていると、視界の端で何かが動いた。

慌てて辺りを見回せば、あの黒い靄が、ジワジワと俺達の方へ寄ってきていた……ぞわっと寒気がした。
彼女を見れば、動く気配を見せなかった。
まさかアレとグルじゃなかろうな?

……だが、そんな考えはすぐに消えた。

再び靄が生き物に変わった瞬間、彼女は驚くぐらい素早い反応を見せた。
靄から鹿みたいな頭が生まれた、そう見えた瞬間、彼女はすでに発砲していた。
だが、相手の反応もまた早い。空中で反転して、再び靄に消えた。彼女の弾丸は、生き物の尻尾に当たり、その部分だけが霧散した。

一連の流れに、俺は呆気にとられる。
いや、マジで。俺は今、まるでアクション映画を見てるかのようだぜ。しかも、こんな至近距離で。


「ふむ、随分と素早いな」


5メートルくらい先に、あの黒い靄がいる。けれど、彼女はまた身構えるだけで、何の反応もない。

……何で?


「……あのさ、一つ質問」
「……。何だい?出来れば、後にして欲しいんだがね」
「お前、何であの靄の時に攻撃しねぇの?そっちの方が早くね?」
「!」


すごく嫌そうに促され、けれど俺はそれにめげずに、質問すれば……彼女は驚いたように、目を見開いた。


「……あの靄の時に?まるで、他の形状があるかのように言うんだね」


……何だこれは?
俺は試されてんのか?

若干頬を引きつらせながらも、俺は口を開いた。


「それこそ‘不要な問答’だろ?お前が撃つ時って、いつも鹿みたいな猿の時だけじゃん。それともあれ?靄の時には攻撃当たらないとか?」


彼女に言われた言葉をそのまま言い返してやる。
彼女は目を見開いて、眉を顰めた。


「……君は、アレが‘視える’んだね?」
「は?何今さら?さっき自分で分かってるって言ってただろ」
「そして、君は……アレが狭間にいる時も、視える」
「狭間?」
「……なのに、君は自分がされたマーキングに気付かない。一体、君の霊視力はどんな仕組みになってるんだい?」
「れ、レイシリョク?」


……って、何だよそれ?
俺に分かる言葉で喋ってくんねぇかな、マジで。



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あきゅろす。
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