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未知なる世界


ダッと走り去って行った少年をジッと見送っている少女を窺うように、健と呼ばれた青年……高城は声をかけた。


「それにしても、珍しいな。朱珠が逃すなんて」
「そうかい?まぁ、確かに驚いて反応が鈍ったことは認めるけれどね」
「……驚いた?」


怪訝そうに復唱する高城に、少女は一つ頷いた。


「彼は私の腕を引っ張った」
「あぁ……そう言えば、腕を掴んでいたね」


それに邪魔されたのか、と一つ頷いた高城を、チラッと見て、首を横に振った。


「邪魔された、か……確かに、結果としては否定できないね。けれど、考えてもみたまえ。邪魔された、そのこと自体が驚くべきことなんだよ」
「……?もっと詳しく言うと?」


とても回りくどい言い方をする少女に、けれど高城は慣れているのか、その先を促した。
少女は、どこからともなく、スッと金色に輝く細身のリボルバー式の銃を取り出した。


「分からないかい?彼は私が仕留める前に、私を引っ張ったんだ」
「……っ!」


ゆっくりと噛み砕くように言われた台詞に、高城はハッとしたような顔をした。


「……つまり、彼は……あの少年は、お前が気付くよりも前に……?」


コクリと頷く少女に、高城は驚きを隠せない。
目の前の少女の実力は、他の誰でもない、高城自身が良く知っていた。


それを上回る力を、あの少年が持っているというのだろうか……?


信じられずに呆然としている高城を余所に、少女は少年が去った方に再び視線を向けた。

そして、スッと電子辞書位の大きさのパソコンを取り出し、慣れた手付きで操作をすると、この街のマップを出した。
一カ所が黄色く点滅し、あちこちへと動いていたが、しばらくするとある一点から動かなくなった。
そこをダブルクリックすると、次々と新たな画面が出てきた。


「……ふむ、ここか」
「……いつの間に発信機なんて取り付けたんだ?」
「彼が走り去る直前だね」
「全く気付かなかったな」
「それは有り難い。そんな簡単に気付かれては意味がないからね」
「……張り込むのか?」


そう言った高城を、少女はチラッと、どこか呆れたように見やった。


「健、それは愚問だよ。そうしなければ、君からの依頼は達成できないだろう。第一、被害の拡大をただ傍観する気はないよ」


そう凛とした声音で言った時、店員が呼んだ救急車が到着し、二人はそちらに視線を向けた。


「ふむ、ようやく来たようだね。……健、後の処理は任せたよ」
「あぁ、任せてくれ……朱珠は先に戻るんだろ?」
「今夜は長くなりそうだからね。今の内に充分な休養を取ってくるよ」
「気を付けろよ」


その言葉に、少女は微笑みで返した。
スタスタと歩き去る彼女を見送り、高城は一つ溜め息を吐くと、騒然としている現場の中に飛び込んでいった。


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