[携帯モード] [URL送信]

未知なる世界



「朱珠っ!」


その声にハッと我に返る。
そちらを向けば、若い男性がスーパーの店員を連れて走ってきていた。
仕立ての良い高級そうなスーツを着ている。
そして、何故か俺を見て驚いたような顔をした。

……何だ?

不思議に思いつつ、彼が向けている視線を追い……。


「……!あっ、悪ぃ!」


慌てて掴んでいた彼女の腕を放す。
気付けば、先程彼女に対して怒鳴っていた男は、床に突っ伏していた。
周りに意識が向くと同時に、一気に血の気が引く。

……ヤバい。
今俺、かなり不審な奴じゃねぇ?

だけど、俺の動揺をさて置き、目の前の二人は会話を続ける。


「朱珠、大丈夫だったか?」
「それは愚問と言うものだよ、健。……ただ、彼の方は回復が遅れるだろうね」
「……?それはそうだろう。いつものことじゃないのか?」
「いや、いつもと違うよ。何故なら、まだ彼は欠片を取り戻していないのだから」
「……ッ!」


息を呑んだ彼から、朱珠と呼ばれた少女はこちらを見た。
それに何故かドキリとする。


「……君は、何故私の腕を引っ張ったんだい?」
「えっ?あ、いや……」


しまった、何て言おう。
どう誤魔化そうか必死に頭を悩ませていると、彼女は更に言葉を紡いだ。


「君は、あの存在を感じたのかい?それとも……」


彼女はそこで一旦言葉を切り、その深い闇色の瞳を向けた。


「……君には、‘視’えたのかい?」
「…な、何を!?」


ドキリと胸が跳ね、声が上擦った。
ただただ、ジッとこちらを見る彼女に……俺が取った行動は――……。









……逃げました。

息を切らしてコンビニに入った俺を、怪訝そうな視線が集まっていたが、今はそれどころじゃない。

別に逃げなくても適当に誤魔化せば良かったんじゃね?……なんて、冷静になってきた今なら思える。
しかし、あの時はそんな風に頭は回らなかった。
ただ……あの目。
何もかもを見透かしたかのような瞳が、ただ怖かった。俺の知らない、何かを知っていそうで……。

首を横にゆっくりと振る。
コーラと、頼まれていたアイスをレジに運び、そのまま帰宅した。


「おかえりー……って、あんたどうしたの?何かやつれてるわよ?」
「……ただいま。何でもない」


頼まれていたものを母さんに渡すと、ソファーに座っていた姉さんと……何故かいる幼なじみの雪菜がキョトンとした顔で見ていた。


「智樹、たかがコンビニ行くだけで、そんな疲れることないでしょ」
「うるせっ。……ってか、雪菜はどうしたんだ?」
「え、あ……その」


雪菜は若干頬を染めつつ、こちらに歩いて来てニッコリと微笑んだ。


「はい、一日早いけど、誕生日おめでとう」
「……おー。そういや、明日だ。誕生日」
「智くん忘れてたの?」
「今日は色々とあってな」
「本当は明日渡したかったんだけど……明日はおばあちゃん家に行くから」
「サンキュー。わざわざ悪ぃな」


そう言えば、雪菜は嬉しそうに笑った。
……本当に、素直な奴だよな。そりゃモテるわけですよ。

一人頷いて、綺麗にラッピングされた袋を開ける。中には、青いシャープペンと緑のボールペンがあった。ちょっと高そうな外見のもので、ちょっと大人っぽい。
チラッと見れば、雪菜は頬を染めた。


「ちょっと高校生っぽくて良いかな、って思って」
「ん、サンキュ。使わせてもらうな」


そんな会話をした後、部屋に戻って……フと思い出した。
そういや彼女が来ていた制服って……この前のチラシのやつじゃないか?
ということは、やっぱり逃げて正解だったのかもしれない。
危うく変な世界に引き込まれるとこだった。


そう、自身を納得させて、買ってきたコーラを飲んだ。

[*前へ][次へ#]

2/7ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!