未知なる世界
2
「朱珠っ!」
その声にハッと我に返る。
そちらを向けば、若い男性がスーパーの店員を連れて走ってきていた。
仕立ての良い高級そうなスーツを着ている。
そして、何故か俺を見て驚いたような顔をした。
……何だ?
不思議に思いつつ、彼が向けている視線を追い……。
「……!あっ、悪ぃ!」
慌てて掴んでいた彼女の腕を放す。
気付けば、先程彼女に対して怒鳴っていた男は、床に突っ伏していた。
周りに意識が向くと同時に、一気に血の気が引く。
……ヤバい。
今俺、かなり不審な奴じゃねぇ?
だけど、俺の動揺をさて置き、目の前の二人は会話を続ける。
「朱珠、大丈夫だったか?」
「それは愚問と言うものだよ、健。……ただ、彼の方は回復が遅れるだろうね」
「……?それはそうだろう。いつものことじゃないのか?」
「いや、いつもと違うよ。何故なら、まだ彼は欠片を取り戻していないのだから」
「……ッ!」
息を呑んだ彼から、朱珠と呼ばれた少女はこちらを見た。
それに何故かドキリとする。
「……君は、何故私の腕を引っ張ったんだい?」
「えっ?あ、いや……」
しまった、何て言おう。
どう誤魔化そうか必死に頭を悩ませていると、彼女は更に言葉を紡いだ。
「君は、あの存在を感じたのかい?それとも……」
彼女はそこで一旦言葉を切り、その深い闇色の瞳を向けた。
「……君には、‘視’えたのかい?」
「…な、何を!?」
ドキリと胸が跳ね、声が上擦った。
ただただ、ジッとこちらを見る彼女に……俺が取った行動は――……。
……逃げました。
息を切らしてコンビニに入った俺を、怪訝そうな視線が集まっていたが、今はそれどころじゃない。
別に逃げなくても適当に誤魔化せば良かったんじゃね?……なんて、冷静になってきた今なら思える。
しかし、あの時はそんな風に頭は回らなかった。
ただ……あの目。
何もかもを見透かしたかのような瞳が、ただ怖かった。俺の知らない、何かを知っていそうで……。
首を横にゆっくりと振る。
コーラと、頼まれていたアイスをレジに運び、そのまま帰宅した。
「おかえりー……って、あんたどうしたの?何かやつれてるわよ?」
「……ただいま。何でもない」
頼まれていたものを母さんに渡すと、ソファーに座っていた姉さんと……何故かいる幼なじみの雪菜がキョトンとした顔で見ていた。
「智樹、たかがコンビニ行くだけで、そんな疲れることないでしょ」
「うるせっ。……ってか、雪菜はどうしたんだ?」
「え、あ……その」
雪菜は若干頬を染めつつ、こちらに歩いて来てニッコリと微笑んだ。
「はい、一日早いけど、誕生日おめでとう」
「……おー。そういや、明日だ。誕生日」
「智くん忘れてたの?」
「今日は色々とあってな」
「本当は明日渡したかったんだけど……明日はおばあちゃん家に行くから」
「サンキュー。わざわざ悪ぃな」
そう言えば、雪菜は嬉しそうに笑った。
……本当に、素直な奴だよな。そりゃモテるわけですよ。
一人頷いて、綺麗にラッピングされた袋を開ける。中には、青いシャープペンと緑のボールペンがあった。ちょっと高そうな外見のもので、ちょっと大人っぽい。
チラッと見れば、雪菜は頬を染めた。
「ちょっと高校生っぽくて良いかな、って思って」
「ん、サンキュ。使わせてもらうな」
そんな会話をした後、部屋に戻って……フと思い出した。
そういや彼女が来ていた制服って……この前のチラシのやつじゃないか?
ということは、やっぱり逃げて正解だったのかもしれない。
危うく変な世界に引き込まれるとこだった。
そう、自身を納得させて、買ってきたコーラを飲んだ。
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