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未知なる世界


――……っ。

「……んっ」


ぼんやりとする意識の遠くで、自分の名前が呼ばれた気がした。
だが、心地良い眠りを邪魔されたくなく、目を必死に閉じる。


「――……だぁっ!いい加減に起きろ!この馬鹿がっ!」
「ぐへぇ…っ!!」


腹にドスっとものすごい衝撃を送られれば、流石の俺でも起きますとも。
つーか、最悪な目覚めだなチクショウ。

腹をさすりながら、不満気に、弟の腹を足蹴にするという暴挙をしでかした女を見てやれば、彼女は鼻を鳴らした。


「雪が来てるんだから、さっさと起きな」
「は?雪菜が?」


姉が口にした名前に首を傾げれば、一つ頷かれた。


「そうよ。だから、さっさと降りな」
「……へーい」


ガシガシっと頭を掻いて、布団から出る。
窓の外からは蝉の声が聞こえ、その五月蝿さに眉を顰める。

寝間着にしてるジャージのままだが、気にせずそのまま部屋から出る。
……どうせ今から会うのは、生まれた頃から顔を突き合わせてるヤツなんだ。
今更格好付ける必要はない。

一人納得し、階段を降りて行くと、先に向かった姉と談笑してる女子がいた。

亜麻色の、先が少しパーマがかっている髪を低い位置で二つ結びしている。少しタレ目気味で、優しい印象の容姿に、名前の通り色白な肌、ほんのり色付いた頬。
幼なじみの贔屓目を抜きにしても美少女に分類されるような彼女の名を、白鳥 雪菜という。

ゆっくりそちらに足を進めれば、こちらに気付いた雪菜が、パッと顔を輝かせた。


「智くん、おはよう!あの、突然ごめんね?高校の雑誌一緒に見ようと思って」
「あー……高校ね」
「うん、智くんまだ決めてなかったよね?」
「あぁ。……つか、良く知ってんな」
「えっ!?あ、その!」
「……?」


何故そこで慌てる?
あわあわと顔を赤くしながら慌てる雪菜を、ニヤニヤとした笑みを浮かべて見る姉さん。そんな姉さんにブンブンと首を横に振って、必死に何かをアピールしている雪菜。

……うん。
もう訳分かんねぇ。

まぁ女子同士の会話に首突っ込む気はさらさらないから、椅子を引いて腰掛ける。

テーブルに置いてあった紙を何とはなしに目を向けた。


「……ん?」


手に持ってマジマジと見てみれば、それは何と高校のチラシだった。
つか初めて見たぜ、募集にチラシ出す高校なんざ。


私立 武秀学院


そうデカデカと書かれた学校名。
下の方に視線を持っていき……思わず目を擦った。


「智樹、あんた何してんの?」


その行動に、怪訝そうな顔をして問う姉さんに、無言でそのチラシを渡す。


「武秀学院…?へぇ、中等部から大学院まであるのねぇ。……って、はぁ?」
「な?意味不明だろ」
「意味不明とかそんなレベルじゃないわよ。何コレ?宗教?」


その会話に、雪菜が姉さんの手元を覗き込み……内容に目を通すとパチクリと目を瞬かせた。


「……未知なる世界、霊能の世界へのご案内……?」


そりゃチラシなんかで募集をするわけだよ。

今の中学生は現実的なんだ。そんな学校出たらお先真っ暗。職に就けたとしても、怪しげな宗教団体しか道はない。

よって、そんな学校には入らない。


「あら?でもここ結構良いとこに就職してんのね」
「……は?マジ?」
「本当だ……政治家になる人も多いみたい」


その言葉にもう一度チラシを見れば、最終就職先が載っていた。
そこには名だたる大企業や、弁護士、医者、果ては国会議員など、立派なとこがズラッと並んでいた。

これが本当なら何だ、この国には変な宗教の人間が多いってことか?
日本は無宗教なんじゃなかったのかよ。

どことなく呆れた思いで、更に読み進めれば、何とビックリ。
偏差値が75と何処の名門だ、って位の基準が書かれていた。


「こんなに頭良いんじゃ、雪はともかく、智樹にゃ無理ね」
「うるせっ、つか頼まれてもごめんだね。こんな宗教学校」


ニヤニヤと笑う姉さんに悪態を吐けば、ケラケラ笑いながら部屋を出て行った。


「制服も結構可愛いんだね、この学校」
「ん?……何だ?興味でも沸いたのか?」
「ううん、行かないよ」
「……まぁ、それが無難だろ」


ヤケにはっきりと言う雪菜に不思議に思ったが、適当に相槌を打った。


通常紺色が多い中で、この学校の制服は黒がベースのブレザーだった。
制服ってより、むしろスーツに近い気がする。
胸元のポケットの縁取りに、金の刺繍があり、ちょっとオシャレだ。男子は青のチェック、女子は赤のチェックのネクタイを着用し、ワイシャツもそれぞれ薄いブルーとピンクを着ている。
俺はあまり分からないが、雪菜が可愛いと評価するんだから、きっと可愛いんだろう。


その学校のチラシは脇に追いやり、雪菜が持ってきた普通の高校情報を二人で見た。





――……この時の俺は思いもしなかった。
まさか脇に放ったチラシを必死で探すことになるなんて……。





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