たんぺん集。 馬鹿な金持ち有難いです。 「いいか!?ナツキはてめえみたいな奴が一緒に居ていい奴じゃねえんだよ!!」 殴られる。 「ナツキの優しさに漬け込んで付きまとうなんて、本当クズですね!!」 蹴られる。 「近付くなって何回言えば分かるの〜!?頭空っぽなの〜!?じゃあこんな頭いらないよねえ!!」 踏みつけられる。 「…存、在が…いらない……。」 唾を吐き捨てられる。 「ナツキが迷惑しているの分からないのか!」 更に蹴られる。 「すみません…っ も、もう近づかないから…すみません許して下さい…!」 すみません、すみませんと消え入りそうな声を出しながら泣いて乞うも、暴力は止まる事はない。 「黙れ!喋っていいなんて言ってねえだろうが!!」 「何て汚い顔でしょう…!こちらに向けないで頂けますか!」 「きゃははっマジ汚ぁい!高校生にもなってえ、何その泣き方〜!!」 「…汚い…価値、な…い…。」 「ああ早く退学にしたいね!こんな汚らわしい人間をナツキに見せたくないよ!!」 口々に言いながらも、手や足は動き続ける。 「だけどぉ〜、この汚物を退学にさせたらナッちゃんが悲しむよ〜っ。」 「まったく上手く取り入った物ですね!汚物の分際で!!」 苛つきをぶつける様に更に激しく背中を蹴る。 それから十数分そのリンチは続いたが、対象者が気絶する事で終わりを迎えた。 「ちっ…根性ねえ野郎だな。」 「ああ、そろそろナツキが起き出す時間ですよ。」 「寂しがってるかもしれないね。」 「俺が慰めてあげよ〜っとぉ。」 「…俺…が、慰め…る。」 遠ざかっていく話し声と、扉が閉まる音を確認してから、先程のリンチの対象者―――相田は目を開ける。 気絶はフリだった。 そうでもしなければ、彼らは数時間と続けた事だろう。 誰も居なくなった空き教室で、どこか遠くを見ながら一人呟く。 「何なんだよ……俺が、こんな、こんな……っ」 顔が歪む。 泣きそうになる。 別に俺が付きまとっている訳じゃない。 あいつが勝手に寄ってくるんだ。 本当何なんだよ、俺がこんな…っ 「っこんなに幸せでいいのか!?」 泣きそうだ! 嬉しすぎて! 顔が緩む! 嬉しすぎて! 「や〜もう神谷には報酬上乗せしなきゃな。こんなに金の成る木が手に入るなんてっ!」 どこか遠くに諭吉さんを思い浮かべ、弾んだ声で言う。 さっきの奴等は生徒会+風紀委員長。 ナツキってゆうのは転入生。 一ヶ月くらい前に転入してきたナツキに、どうやら心底惚れているらしい。 「ちゃんと撮れてっかな〜。…おっ!バッチリじゃん!さすが俺!」 そんでそのナツキがべったりな俺を、妬んで羨んで嫉妬して、先程の様にリンチだったり嫌がらせだったりをしてくるわけだ。 「もう撮り溜めてんの10本以上かー。そろそろ売ってくかな。」 この学園は金持ち高校。 その生徒会に風紀のトップなんて、金持ちの中の金持ちだ。 つまり最高級の鴨、間違えた最高級のセレブだ。 「とりあえず全員の実家と会社とライバル会社とー、マスコミも高く買い取ってくれるかな?」 そのセレブの暴力行為。 無抵抗な人間への一方的な暴行に、器物破損。身分をたてにとった恐喝恫喝脅迫。 更に更に、その行為が同性である男のケツを追っかけまわしている為、という事実。 すべて保存した記憶媒体は、いったいいくらで売れるのだろうか。 「あー…。神谷を通した方がいーよな。馬鹿正直に俺が行ったら身が危ないかも。」 呟きながらケータイを出す。 「出るかなーあいつ。まだ昼前か。」 ...9コール、10コール、11コール… 『…………もしもし。』 「おっ出た。けどすげえ不機嫌。」 『俺は忙しんだよ…つまんねえ用だったら殺すぞてめえ。』 「やーん怖いっ!あのさ、お願いがあるんだけど。」 『ああ?』 「権力者達の家とかもろもろに、例の記録媒体を売って欲しいんだよね。」 『ああ…もうたまってきたか。』 「うん、十本くらいは。来月学費の支払いしなきゃいけないからさ、金がいるんだよ。」 『俺を顎で使うとはいい度胸だなユウヤ。』 「そんな事する気はないよ〜。1割でどう?」 『2割だ。』 「2割ね…。オッケー。頼んます。」 神谷は神出鬼没の情報屋だ。 客を選ぶことと、莫大な金を取ることで有名な。 性格が悪いこともこっそり有名だけど、その実力は確か。 大企業や大物政治家は大体神谷の世話になったことがあるという。 そんでその権力者共が、どうにか繋ぎを作りたくて専属にしたくてたまらない情報屋。 天才ハッカーだとか、元CIAの諜報員だとか言われてる。実際どうだか知らないけど。 ひょんな事から知り合った俺は、どうやら気に入ってもらえたらしい。 金は割り引いてくれてるし(それでも高いけど)、いい感じの情報があったらこちらが聞かなくても教えてくれたりする。 まあ知り合ったっていっても顔も本名も知らないんだけど。 で、ナツキが転入してくるより少し前。 神谷から連絡が入った。 すげえ爆弾が学園に来るから、金稼ぎたければ一人部屋になれって。 詳しくは教えてくんなかったけど、俺はあいつを信じて同室者にお願い(脅迫)して部屋を出てもらった。 んで神谷の言う通り、記録媒体を山ほど用意して「爆弾」らしい転入生を待った。 神谷が言ってた「爆弾」の意味ね、初日に分かったよ。 入寮の日から孤高の金持ち共を次々と落としていったから。 その惚れた奴らの顔見たら、ピーンときたね。 ナツキに執着しすぎて周りなんも見えてなかったんだもんよ。 傍迷惑な人気者に執着されている、俺の新しい同室者であるナツキは一躍学園中の嫌われ者だ。 まあ俺がそう煽動したんだけど。 そんなナツキは唯一の「親友」で同室の俺にかなりなつき、それが気に入らない金持ち共は自ら金の成る木を植えてくれてるって事。 馬鹿が馬鹿みたいに自分の立場を理解せず、馬鹿らしい程上手くいく。 もしかして神谷がなんか手え回してんのかもな。 「あー痛かった…。ったく顔はやめろよなー。」 自室代わりに使っている別の空き教室に入り、鏡を見ながら消毒する。 「あー脱ぎてー。でもまだ昼前だからなあ。一応着といた方がいいか。」 長袖長ズボンの制服の下には、神谷から紹介された工事で作った激薄ながらも吸収性がハンパない、まあ防弾チョッキみたいなやつ。 血のりを隠すスペースあり。 「…あ、昼休み始まんじゃん。教室戻ろ。」 ちょっと目立つくらいに顔の怪我を晒して、歩き方も注意する。 すっごい痛みがあるみたいに。 教室に入ると、一斉にみんな振り向き俺を見て、苦しげに顔を歪める。 生徒会役員に呼び出されたのに、嫉妬されるでもなくこの反応。 ナツキはすっげえ嫌われてるけど、俺はそうでもないんだよね。 数人が駆け寄ってくる。 「ユウヤくんっ」 「大丈夫……?」 「怪我…ひどいね…。」 俺は少し顔をひきつらせながら苦笑する。 「平気だよ…ありがとう。」 3人は更に泣きそうになる。 「でも……、」 「ね、……」 「やりすぎ、だよね…。」 「ほんとうに、大丈夫だよ。……僕は、みんなが心配してくれるのが嬉しい。ありがとう。」 照れ臭げにはにかむ。 すると少し顔が明るくなった。 「あっあのね、授業のノート、とってるよ。」 「先生も分かってくれてるから!」 「それにね、シイトくんが、勉強会開いてくれるって!」 シイトってゆうのは、学園一の秀才。 みんなに優しい優等生だ。 ちなみに俺は、気弱で心優しい、目立たないけど隠れた美少年って感じ。 俺の性格知ってるのは、各親衛隊隊長とかしかいない。 この学園で楽しく過ごすには、人気者よりそっちを取り込んだ方が早いからね。 取り込んだって言っても弱み握ってるだけだけど。 「みんなありがとう…!シイトくんも、本当にいいのかな…?」 遠慮がちに窓際の席を見ると、シイトは銀フレームの眼鏡越しに微笑む。 「構わないよ。復習にもなるし、俺も助かる。」 「だったら良かった…。ありがとう。」 「転入生が居ない時の方がいいよね。」 「うん……あの、ごめんね。」 「気にしないで。ユウヤ君が大変なのはみんな分かってるから。」 俺は一瞬泣きそうな顔を作り、俯く。 また別の数人が駆け寄ってきて、口々に慰めてくれた。 …みんな、いー子だなあ。 この中にはナツキに理不尽に殴られた人も結構いる。 学園の質も一部の馬鹿のせいで落ちてきてるし…。 もういいか。 卒業までの学費も、大学の入学金もほとんど貯まった。 一人暮らし資金も大学の学費も、今回の件で入るだろ。 馬鹿にはもう、ご退場願おう。 -------------- 続く……のか? シイトくんが神谷くんでユウヤを溺愛してるとことか書きたかったんですが………。 (´・ω・`) ユウヤくんは一般家庭育ち。お金だいすき。 シイトくんはめっちゃ金持ち。王道的に隠してる。情報屋は学生の間の暇潰し。 どっちも猫被ってます。 [*前へ] [戻る] |