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俺の欲しいもの。






昔話をしよう。

アキラクンが生まれた家。
結構イイトコって言ったでしょ?

江戸時代から続く歴史のある呉服屋さんで、日本の歴史と伝統を守り続けてるんだって。

で、今のご当主。御年47歳、威厳たっぷりのオジサン。
彼が26歳の時、縁談があったんだって。
和服が大好きな外国の夫人。
その人が、是非自分の親戚を時期当主の妻に、って望んだみたいで。勿論家の者は外国の血を入れるなんて、っておもったらしいけど、その夫人はお得意さんだった。しかも、資金援助とかもしてたらしい。

断るに断れなくて、結局その親戚の人の片親が日本人で、親戚の人も黒髪黒目だったこともあり、渋々受け入れたって。

だけど時期当主には恋人がいた。滅茶苦茶愛し合ってて、何度も離れさせようとしても離れられなくて、最終的に内縁の妻的な立場で落ち着いたらしい。





そんで、数年後。縁談の妻と、内縁の妻。ふたりは同時期に妊娠した。

時期当主は、喜んだ。父から、子が生まれたら当主の席を譲るとも言われていたので、二重に喜んだんだろうね。

で、更に出産予定日は違っていたものの、縁談の妻が早くに産気付いて出産は同じ日。

だけど生まれた子供は違った。

ひとりは黒髪黒目、ぱっちり二重の可愛い赤ちゃん。

ひとりは見るからに日本の血じゃない髪色の、切れ長一重の赤ちゃん。

家は大混乱だったらしい。何故ならプラチナブロンドの髪目を持つ赤ん坊が数時間早く生まれていたから。それも縁談の妻、法的な妻からだ。

歴史のある家。当主の座を継ぐのは長男と、伝統が定めていた。法的に塞ぐことも出来ない。


時期当主は悩み、家の者と話し合い、長男を施設に出した。長男にと考えていた「輝(あきら)」に別の字を当て、「彬(あきら)」の名前と一緒に。




縁談の妻は嘆いて、悲しんだって。守れなかったと、臥せっちゃったんだって。
時期当主は、縁談の妻の家に死産したと伝えた。妻はその悲しみに寝込んでしまっていると。



内縁の妻の子を認知し、長男の名前の「輝(あきら)」の名を与え、当主となった男は縁談の妻を冷遇したらしい。
本当は妻になるはずだった内縁の妻との間に割り込んできたと、更に子を残すという仕事さえ出来ないのかと。




縁談の妻は心労から病死したんだってさ。子達が産まれて6年後のこと。






内縁の妻が後妻に収まり、輝は家の者全てに愛されて育った。


もうひとりの彬は、苛められていた。学校では親に捨てられたと。施設では色が気持ち悪いと。
子供って、自分達と違うものを徹底的に嫌うんだよね。






そして彬は出会った。と言っても、話したのは二言三言。



小5の時、靴を奪われた。いつも隠されるか悪戯されているから持ち歩いていた靴も、履いていた靴下も。上履きは1ヵ月前捨てられた。

裸足で帰れってことなんだろう。靴を無くしたのはもう4度目だから、新しい靴を買ってもらうのも悪いなあ…どうせまた、それで施設の奴らには苛められるだろーし。と思ったら帰るに気になれなくて、公園のベンチに座っていたらいきなり声をかけられた。



「お前、なんで裸足?」

同い年くらいの男の子だった。
見るからに上品な制服をきて、皮の靴を履き、自分の様なお下がりのランドセルではなく綺麗な鞄を持っていた。

「…靴がないから。」

こんな恵まれてそうな奴が興味本位で関わってくるのにいい気はしなかったけど、どうせこいつも無視したら殴るんだろうから、答えた。


「はあ?…ああ、イジメね。やっぱ公立でもあるんだよなあ。」

そう言って男の子は靴を脱いで、ベンチの足元に置いた。

「…なに、同情?」

いらっときた。同情されるのが一番キライだ。僕は可哀想なんかじゃない。

「ちげえよ馬鹿。貸すだけ。俺車だし。」

意味が分からなくて見上げる。

「城静学園の斎明悠。お前、特待でもなんでもうちの学校入って、そいつら見返してやれば。人生の勝ち組は俺だってな。靴ぁそんとき返せ。」

彼はそう言って頭を軽く撫でてくれた。
…撫でてくれた。初めてだった。頭を撫でてもらったのは。施設の院長は傍観者、学校の先生は見てみぬふり。
本当に軽く、むしろ叩く様だったけど、俺は信じられない程救われた。
そのまま迎えにきた車に乗り込み、男の子は帰っていった。






とっても大きいその靴を履いて帰ったら、施設の奴らに絶対盗んだんだって殴られて、院長先生が止めてくれたけど警察に行くわよって言われた。

必死で事の経緯を説明して、その時城静学園も知った。男の子が言ってた「特待」は、頭がとってもいい人が学園から支援されること、とも。


「さいみょう、ゆう」


名前を記憶に刻み込みながら、死ぬほど勉強を頑張った。
苛めは一時エスカレートしたが、殴られても無視していたらいつの間にか終わっていた。





もちろん、この「彬あきら」が俺のこと。俺といーんちょの運命の出会い〜。

何で赤ん坊んとき捨てられた俺が、家のことなんか知っているのかと言うと。

オニーチャンが言っていた「門脇」ってオッサンが教えてくれたから。

途中から聞きたくないって何回言っても、無理矢理教えられた。



フリーライターなんだってさ。
何でもこのネタで揺するハズだったのに、ご当主が拒否ったんだって。
で、どの出版社に持っていっても根回しされてて追い返されたって。
だから腹いせに俺んとこ来たみたい。たぶん俺が家に行くとでも思ったんじゃない?それでざまーみろ的な。

でも俺はそんとき中1。本当の母さんが死んじゃったなら、俺を捨てた家になんて興味ないし。いや勿論ふざけんなって思ったけどね。暫くは悔しくて、悲しくて眠れなかったし。

でも知らないオジサンから聞いた話だし、憎むのは自分で本当か調べてからでも遅くないって思ったわけ。



自分で調べるって言うのは、俺が自分で金を稼げるようになって、自分の金で探偵なり興信所なりに依頼するってこと。

だから早くても3年後くらいのはずだった。

だけど…高校に進学した春。入学式よりも入寮式の方が先で、もう大体の人が寮に入ってた頃。

俺は「さいみょう ゆう」を探すために、入寮できる初日から寮に入っていた。さいみょうゆうは有名人らしい。中等部からの持ち上がり組に聞いたらすぐに分かった。


親衛隊があるから近づかない方がいいよ、って言われたけど、俺は早く会いたくて。あっちは覚えてないだろうけど、俺は城静に特待で入ったよって。もう虐められてないよって言いたくて。靴を、返したくて。



探し初めて5日目、どうやら彼は滅多に人前に出ないらしい。面倒臭がっているとか、出る暇もないくらい忙しいとか色々聞いた。




だけど5日目、懲りずに借りた靴を紙袋に入れながら探していたら、見つけた。


校門からの道を見られる校舎の3階。すぐにわかった。あの頃から変わっているけど、全然かっこよくなってるけど、すぐに分かった。
周りが「斎明様だよっ」とか騒いでるから当たりだ。


あっちは分からないかな。俺の髪色で思い出さないかな。無理だと分かっていても、この虐められる原因にも、捨てられる原因にもなったらしい髪色に頼りたくなる。





――だけど、彼が見ているのは俺じゃなかった。俺なんかじゃなかった。



大きな荷物を一生懸命運んでる、黒髪黒目、黒渕眼鏡の目立たない奴。


そいつを愛しそうに、心配するように目を細めて見つめる彼。




身体が動かなかった。だって、あれは、あの顔は。

門脇に見せられた写真の、真ん中で笑っていた―――

「山川輝」だ………。



涙が出そうだった。



あの視線の意味くらい分かる。

門脇ってオッサンが言った事が本当かどうかも分からない。

彼は俺の事なんて知らない。俺と「山川輝」の関係も知らない。


だけど思ってしまった。
彼も、俺より「山川輝」を選んだ。本当、勝手で被害妄想で自己中心的な考えだけど、そう、思ってしまった。




靴は返せないまま、その日は帰った。
特待生は勉学に集中できる様に一人部屋。それを有り難く思いながら、泣いた。

こんなに泣くのは門脇のオッサンに、家の話しをされた時以来だ…。


状況もあの時と一緒じゃん。そう考えると少し笑えた。
俺は捨てられたって、選ばれなかったって分かって。選ばれたのは、必要とされたのは「山川輝」なんだって知って。

あの時俺は、同じ父から生まれた同じ「あきら」でも、全然違うじゃんって思ってて。あいつは周りの皆に愛されて大事にされて、俺は学校でも施設でも虐められて友達なんてひとりも居なくて。
悔しかった。憎かった。だけど諦めもあった。
仕様がないんだ。嘆いたって仕方ない。

羨んだって仕方ない。俺は城静学園に行くんだ。それで、「さいみょうゆう」に靴を返して、「あいつら見返してやったよ」って言うんだ。自分の幸せくらい自分で掴み取る。死ぬ程幸せになって、「山川輝」も「山川家」も見返してやる。


それだけ思って、立ち直った。


だけど今は?

また選ばれたのは「山川輝」。必要とされたのは「山川輝」。

しかも選んだのは、「さいみょうゆう」。




――いや、そんなの彼の勝手だ。

俺がなにか思う資格なんてない。

そう思おうとしても、どうしても考えてしまう。
俺がもし捨てられてなかったら?もし山川家で育って、こんな金持ち学園に中等部から居られたら?彼と仲良くなるのが俺の方が先だったなら……?


そんなの分からない。有り得ない。それでも考えてしまう。

だって、彼だけだったんだ。彼だけが支えだったんだ。彼に会いたくて頑張ってた来たんだ。




その日も、次の日も泣き続けて、入寮式の日にやっと外に出た。目は腫れてたけど。


入寮式の席は適当だ。その一番後ろの端っこに俺は座っていた。時間ギリギリで、そこしか空いてなかったから。

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