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 味噌汁と焼き魚の良い匂いが一階から漂ってくる頃、二階の彼の部屋の藍色のカーテンが僅かに揺れた。

 その不透明な濃い色の向こうで、細身の体躯がもぞもぞと動いていた。

 朝に弱いという美人の絶対条件の例に漏れず彼も当てはまり、そしてその起床時の機嫌の悪さは折角の美人が勿体無い程である。

 それを熟知しているお手伝いさんも、彼が起きたのがわかっても部屋に行くことはしない。
 下手にドアを開けると何が飛来してくるかわからないから。

 もし彼に一夜を共にする相手ができたらどうするんだろう。

 ただひたすら暇を持て余す僕はそんなどうでもいいことを考えた。

 そしてある結論に達し、僕は唇を歪めた。

 ──彼が人間を好きになるなんて、天地がひっくり返っても有り得ないことだ。

 かなりの時間をかけ、彼がのそのそと部屋を出た。

 最近の学生には朝食も摂らずに時間ギリギリまで寝る輩が多いが、彼はきちんと定時に起き、しばらく部屋でぼーっとしてから朝食を食べるという規則正しい生活を毎日続けていた。

 ヒトを越えたバケモノの聴覚が、屋敷の中の会話をとらえた。

 「坊ちゃん、おはようございます」

 お手伝いさんの挨拶に返ったきた言葉はなかった。
 彼は自分の名前も嫌いだが、“坊ちゃん”呼ばわりされるのはもっと嫌いなのだ。

 こんな大きな邸宅に住んで、自分も名門附属高校の学生で、逆に坊ちゃんと呼ぶなというほうが無理があると思うけど。

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あきゅろす。
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