3 冷たく湿った土が傷が持つ熱を冷ましていくようで、心地良かった。 僕はいつものように庭の低木の中に隠れていた。 少しだけ違うのは、僕の脇に彼が持ってきてくれた救急箱があることと、僕の足下には血と膿に汚れた大量のガーゼが転がっていることだ。 木綿糸で縫合してあげようか、という彼の申し出を丁重に断り、僕は患部に消毒液を漬けたガーゼをあてた。 ひたすらあて続けた。 夜が白み始める頃、傷口は出血どころか傷口までなくなった。 流石化け物、と僕は自分で自分を讃えた。 ついでに傷口に当てていたガーゼを放り、新しいのに変えた。 今にも自壊しそうな自転車の音が近付いてくる。 彼の屋敷のお手伝いさんで、もう六十近い女性だ。 彼女はいつものように裏口に自転車を止め、屋敷の扉のパスワードを解除して中に入っていった。 あの人が来たってことは、もう五時半か。 ちちち、とどこかで小鳥が囀る。 気持ちの良い朝だ。 [*前へ][次へ#] |